頬がひやりとした。
目を開けたが視界がぼんやりして良く見えない。
キリは何度か目をこすって細くするとじわりと焦点が合ってくるのを感じた。
両手で上体を起こすと固い地面の感触と、ざらざらとした砂が手にまとわりついている。
時折あちこちでサーと音がするので辺りを見渡してみれば
高い天井から砂が細長く滝のように降りてきている。
横でまだすやすやと眠っているタクトを揺するとタクトはむくりと起き上がった。
それからしかめっ面で低く唸る。

「ここは?」

「地下みたいだな」

「そんなの分かる」

寝起きのタクトが時々機嫌が悪いのは知っていたのでキリは特別
不機嫌になることも無くそう、とだけ相づちを打つ。
一生懸命頭を覚醒させようとしている親友を頭の隅に追いやって
キリはその他の情報がないかとぐるりと見渡す。
そこは広い地下洞窟のようなところで自分達が今まで歩いていた地面の下にはこんなに
ひんやりとした水気の有る空間が広がっていたなんて少し驚いた。
落ちてくる砂の滝から離れたところには少し大きな水たまりが二つか三つあって
水辺と壁の間にはまるで誰かがいつも歩いているような道ができている。
す、と吸い込まれるようにまだボーっとしているタクトを残して
キリは暗くて見えない道の先へとふらふら歩いて行く。
真っ暗で自分の体がみえなくなっても歩き続けていてふと
自分はどうしてこの道を歩いているのかわからなくなってきた。
このまま前も後ろも見えない道を進んでいったらタクトとはぐれてしまうのに
と頭の隅で考えながらも体が勝手に動く。
自分の体でなくなった気がするのにそれも不思議と嫌な感じはしなかった。
このままでいいのだとさえ思っていた、そのときだった。

「こら、それ以上行ったら落ちるぞ、オマエ」

不意に誰かに声を掛けられ手首を掴まれると
急に視界が明るくなった。
びっくりして辺りを見渡すと岩の壁を掘ったような燭台に火が点々とついている。
こんなに明るいのにどうして真っ暗だったのかわからないとキリは混乱して
狼狽えた。
そして何気なしに足元を見て悲鳴を上げそうになった。
つま先から先の道が無く、そこはぽっかりと空いた崖になっていた。
耳を澄ますまでもなく下から風が吹き上げる音が響く。
こんなにはっきりと大きく音が鳴っているのにキリは全然気がつかなかったし聞こえなかった。
『どこ』を歩いていたのかと考える身が震える。

「途中で気がつくかと思ったけど、案外鈍いんだな。行き先はそっちじゃなくてこっち。もう一人はもう案内しているからさっさとついて来いよ」

滑るような褐色肌にふわふわと広がる金の髪。
頭に布を幾重にか巻いて真っ赤なワンピースを身にまとった少女の手には
その細い指にも腕にも似つかわしくない無骨な杖が握られている。
杖の先に炎を宿して松明代わりにしていた。
少女は踵を返してさっさと歩き始めるとそれっきり振り返りも
口を開きもしないまま歩き続けた。
キリはなんとなくふらふらとその少女について行く。
すっかり何者なのかとかそう言う疑念を持つことを忘れてしまっていた。
こんなところに分かれ道があったのだろかと思うところをすいすい進んで行くと
やがて最初に倒れていた場所と似たような広がった空間に出た。
ただそこと決定的に違うはとてつもなく生活感に溢れている点だった。

「…部屋」

「私のお師匠様のお住まいだ。お師匠様!連れてきました」

誰もいない空にそう叫んだ少女は返事が帰ってこないにもかかわらずじっと待った。
キリはタクトも来ていると聞いたのを思い出して辺りを見渡したが
人の気配がまったくしないので眉間にうっすらと皺が寄る。

「そう怖い顔をするんじゃないよ。ねえエラー?綺麗な顔が台無しだと思わない?」

「綺麗かどうかはわかりませんけど、そうですねガリヤ様にそう言う顔を向けるのは無礼極まりないですね」

突然現れた声の方へ振り向くとキセルを持ち、タバコの煙をくゆらせた
女が流れる視線を向けて立っていた。



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