コーツァナの軍隊が少しずつ進行を始めていると各地から情報が
飛んでくるように入る。
フォレガータは全国民に国外への避難を呼びかける緊急の告示を出した。
混乱が起きないように地域ごとに区切って他の国へ避難させるのと同時進行で
城の警備を厳重なものに整える準備も進める。
近年では戦などほとんど無いに等しかったので平和ボケをしている
兵士達の精神的な訓練も必要だった。
じりじりと迫ってくる言い様の無い不安に希望と言えるかわからなかったが
ある知らせが飛び込んできた。

「民が避難しない?」

「みな、陛下を信じて国へ留まると申しているようです。
陛下のご命令通り、徴兵はしていないのですが、自ら兵士に志願してくる者もいるとか」

「喜んで良いのか、わからないな」

こんな形で民からの忠誠心を確認したくはなかった。
できる事ならもっと、平和的な出来事で民からの信頼を得たかった。
顔を覆って黙り込む女王は本当に心が優しい。
普通は国の一大事と徴兵しその時に備えて軍を拡大していくが
この女王は生粋の軍人で有りながらそれをよしとしない。
ノグ国唯一の魔術学院は、確かに優秀な魔術師を輩出する為の機関だが
そこにある確かな技術を軍に組み込むつもりも毛頭ないらしい。
タクトのように魔術学院を卒業してから、或いは卒業生が軍に志願するのとはあくまで
個人の選択によるものだからフォレガータはそれならばと容認していた。
しかし今回はそれが逆に生徒達のやる気に火をつける形になって在学中の学院生からも何人か成績の優秀な生徒が軍へ志願してきていると報告が上がっていた。

「喜ぶべきです。これは陛下のお力の賜です」

「…何一つムダにすることも犠牲にするつもりもないぞ」

「はい」

パメラはまるで自分の事のように、にっこりと笑う。
自分が仕えると決めた王の為ならばどんな小さなものでも使ってやる。
支えとなるならば喜んで受け入れる。
ただし、敵対するつもりならば一つの容赦もしてやらない。
太陽の光がパメラの眼鏡に差し込んで一瞬のうち見せたその奥の固い決意には
フォレガータは気がつかなかった。

「これから編成を組み直します。やはり『ただの兵士だけ』よりは魔術師がいる方が
戦力の差は桁が違いますからね」

「できあがったらすぐにヘラルドへ知らせろ。私はドゥシャン将軍からの報告を待ちながら医者の確保へ向かう」

「わかりました」

会釈して部屋を出るパメラの背中を見送ってからフォレガータは
壁に掛けてあった自分の剣に手をかける。
それは先代の女王、つまりフォレガータの母親から譲り受けたものだった。
本来なら女王になる時にその都度その女王の為の剣を作るのだが、
フォレガータはまだ使えるからとそのまま母親の剣を腰に携えた。
やることなすことが前代未聞の女王に一番笑っていたのは
他でもないアガタだった。
今の状況を見たらきっとあの男はまた私を笑い飛ばす。
ノグ国は戦が起こる度に武力で他国を制圧して大国にまで成り上がった国だ。
今度もそうしたら『簡単』なのにと笑い飛ばすに決まっている。
アガタなら仮にその簡単な方を選んでも軽蔑しないだろう。
それが女王だものと一言で済ませる。
だから余計に笑わせてやりたくなるのだ。

自分が思っていた以上にアガタが笑った顔が好きだった。

この気持ちは初めてアガタに会って、初めて気を許されたあの高揚に似ている。

「戻ってきたらうんと褒めさせてやる」


もう一つ好きだったのは彼が褒めてくれる時だったのを思い出して笑った。


[ 72/120 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -