『魔法の練習だろう?何をしたい?』

「今日は呼び出すだけ」

『お前は翁と違って慎重だな…翁はバーン!と使って、バーンとお前を吹き飛ばして見せたじゃないか』

「アレ痛いもん。ヤダ」

『アガタは心が優しいんです。風の王』

タクトもキリも、こうして精霊達が井戸端会議をしている所なんて見るのは初めてだった。
そもそも、精霊がこんなに友好的な生き物だだなんて知らない。
他の先生はあくまで彼らとは契約上のつきあいしかせず、用事が済めば精霊達も戻ってしまう。
アガタの周りはいつもこんな感じだったのかと思うと彼と他の教師達の差はこんなところにあったのかと今更ながらに思い知った。

「どうでもいいけど…疲れてきた…」

「俺も…」

「あ、マジで?じゃあ丁度いいから、赤バナナにもお願いしてみなさい。風の王、精霊、二人の目になって」

『私は未来の王の命令しか聞かない』

「えー。いいじゃーん!」

つい、とアガタから顔を背けた風の王の向こう側で風もないのにゆらゆらと赤バナナの葉が揺れる。
小さな畑いっぱいに咲き乱れるこれまた小さな青い花を一生懸命に振るわせ、赤バナナの花からほんのかすかにささやくような声がキリの耳に聞こえてきた。

「なんか喋ってる」

「え?!俺聞こえねえ!」

「タクトはタイプじゃないのかも…うーんこればっかりは訓練かな〜」

『ばか者。動植物の声などそうそう聞こえるものじゃない』

「えーでも俺聞こえるもん」

口を尖らせ、風の王に文句を言うアガタの横でキリは必死に花の声を拾う。
とても断片的な言葉でつなぎ合わせるのが難しかったが確かに『がんばって』っと言っている。
理解した瞬間に全身に鳥肌が立って無意識のうちに腕をさすっていたらアガタがキリの背中をぽん、と叩いた。

『アガタ、女王が来ます』

「え?」

「ちょ、女王陛下?!うわ、俺、お、俺帰る!!」

『無駄です未来の騎士。もうそこまできています』

「なんだよタクト、いればいいのに」

突然慌てて教科書を鞄に詰め始めたタクトにキリはきょとんとして言う。
相当に慌てているのか教科書はちゃんと鞄に収まっておらず、肩掛け鞄の蓋は開いたままだ。
脳天気な物言いをする友人をキッとにらみ付けてバカ!と叫ぶと自分が呼び出した精霊にありがとう、と小さくお辞儀をする。
精霊はにこりと笑ってどこかへ消えていってしまった。

「俺は陛下にお目通りできるような身分じゃねえんだよ!」

「大丈夫!あの人気にしないから!」

「俺は気にするんだ!」

「何を気にすると?」

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