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植物園の一角にテーブルと椅子があって、周りは少し広めの空間が設けられている。
ガラス張りの建物の中からは空高く飛んでいる鳥の姿も見える。
植物はガラス越しに太陽の光をいっぱいに受けてぐんぐん成長するのだ。
「かーさまー!」
「勉強中のところだったのに、悪かったな」
「大丈夫です!あとで復習します!」
「かーさま、かーさまあのね!カントこの間ね!」
「待てカント。ひとまずお茶にしよう。お前達も勉強で疲れたろう?」
「かあさまが頑張っているので僕たちは平気です!」
「カントもへいき〜」
いつも使っているワゴンを植物園まで運び、フォレガータの周りをうろちょろとしている子供達をみて女官は思わず笑みを零した。
暫くこんな風景を見ていなかったので懐かしさもこみ上げてくる。
本当ならばここにアガタもいて、キリもいてもっと賑やかになるだろうに、
今は空いた空間が寂しさを物語っていた。
「今日は急だったからな、スコーンは彼女が作ったものだ」
「ルーシーの?僕ルーシーのスコーン大好きです!」
「かあさまのもおいしいよ!」
「そうだけど…味が少し違うんだよ」
「ありがとうございます、エムシ皇子。母から作り方を教えて貰ったのですけど、
お口に合って嬉しいです」
女官のルーシーは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
ルーシーの作ったスコーンは素朴なプレーン味でありながら
口に入れると味わいがぐっと増した。
「ルーシーはノブリュ地方の出身だったか」
「はい。山に囲まれた土地ですが気候も穏やかで良いところです」
「山にはね、きのこが生えてるんだよ!いーっぱいあるんだって!」
「姫様はとても物知りでいらっしゃいますね」
「カント。モノを食べる時は足をばたばたさせるなと教えただろう」
「はーい」
カントはぽろぽろとスコーンを食べこぼし、とても教育のされた姫とは思えない状態だ。
これから国を担うはずの姫がこの調子ではと影口を叩かれることもあるが
フォレガータはカントの好きなようにさせると心に決めていた。
幼い娘がのちのち成長して、自分で考え、どう行動するかを強制はしたくなかったのである。
ただしカントの選択肢を広める為にカントがしたいと言った事は何でも挑戦させようと思っていた。
「かあさま〜」
「ん?」
「とうさまいつ帰ってくるかなあ」
「キリ兄様が迎えにいったろ、すぐに帰ってくるよ」
ぽつりと零したカントに答えたのはエムシだ。
「カント、はやくとうさまにあいたい」
女官のルーシーはさっと女王の顔色を伺い、何か言わなければと思いつつも
上手く言葉にすることが出来なかった。
表情を一瞬だけ曇らせた女王はすぐさまいつもの女王の顔になり、
そしてすぐに母親の顔になった。
小さな頭を撫でてエムシの言う通りだよ、と娘を諭す。
フォレガータはこんな小さな子供に気を遣わせ、その妹の不安すら拭えてやれないのかと悔しさを覚えた。
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