城には大臣がいる。
財務、司法、魔術、軍事、環境と5つの省がありそれぞれあり、
その省に応じてトップに大臣が据え置かれる。
そしてそれら5つの省をとりまとめるのがノグ国女王である。
軍事、魔術以外は主に貴族で構成されておりそれは建国当時からずっと続いている
まるで習わしのようなものだ。
しかし、フォレガータが女王となってからはその古い習わしも崩れつつあった。
フォレガータは頭の硬く、頭でっかちで自分の体裁や地位に固執する古株の貴族達を良しとせず、次々に才ある人間を要人へ起用し、無能な人間を排除していったのである。
周りは自分の地位が危ぶまれると感じた途端、媚びへつらうことを覚え、
フォレガータの顔色をうかがいつつもフォレガータのやり方を非難し続けた。
フォレガータは貴族達の言葉に耳を傾けつつも、正しく行われない政策を行う者はすべて一掃していった。
それに追い打ちをかけたのがアガタとの結婚である。
かつて城の魔術師であり、ある事件から闇の魔術師とまるで罪人のような烙印を押されて城を追放された翁の弟子であるアガタを、よりにもよって伴侶にと選んだ事で
城の魔術師のみならず城中の貴族達は一層強く反発した。
フォレガータは弁解もせずアガタとの結婚を押し通してしまった。
先代の頃より城の中は渦を巻いていたがここへ来ていよいよその渦がねじれてしまったのである。

「陛下、少し休まれてはいかがですか」

「これが片付いたら休む。もう少しなんだ」

女官は暖かい紅茶をカップに注ぎながらねぎらいの言葉をかけたがフォレガータは、
小さくはにかんで手元の書類へ視線を戻した。
今日は珍しく訪問者のいないスケジュールなのでフォレガータは、たまりに溜まった決済待ちの書類を一気に片付ける事ができた。
元々仕事に打ち込み、多忙な身である女王だが女官が女王の体を心配したのはそれでけが理由では無かった。
フォレガータの夫であるアガタが攫われ、攫われた父を探しに行った血の繋がらない息子の身をあんじ、精神的にも疲れが溜まっている様子だからだ。
仕事に対しては相変わらず厳しい態度で臨んでこそいるものの、時折気の抜けたように
ぼーっとしている時がある。
本来なら誰かが支えになって、手助けが出来れば良いが王宮にはフォレガータの
腹心と呼べる臣下が少ないのが現状だ。
更に言えばその腹心を各地で問題ごとを治めさせる為に遠征にやっているので、
今、城にいる信頼できる人物は本当にごくごくわずかである。

「子供達は大人しくしているか?」

「はい、姫も皇子も先生の授業を一生懸命聞いておられます」

「そうか、ならいい」

「ですが、お二人とも少し寂しそうになさっておいでですよ」

「…そうか」

フォレガータは重量感のある机の上いっぱいに広がった書類を手早く集めると
植物の彫刻が彫られた木箱の中に乱雑に放り投げる。
そして頭を抱えて暫く無言でいると今その存在に気がついたかのように
女官が入れた紅茶に手を伸ばして一口だけ口に含んだ。
二人の子供の様子を正直に伝えたのが逆にフォレガータの心労を増やしてしまったようで、女官は自分の配慮のなさを悔やんだ。

「仕事ばかりでは気が滅入るな。子供達を庭に呼んでくれ。一緒にお茶にしよう」

「はい!」

この女王は、この城の誰よりも相手の気持ちを汲む。
時に非情な決断をする彼女とは思えないほど優しい言葉を掛けてくる時もある。
彼女が相手の意見を一刀両断する時は決まって民を優先している場合であった。
民を苦しめる者を捨て置き、民を脅かすものを排除する。
それが同じ民でも同じだ。
ただし、理由があるのならばそれにきちんと耳を傾ける懐の広さがあっての話しだ。
女官は顔色をうかがわなければならないはずの自分が逆に『うかがわれて』しまったのだと気づき顔が熱くなったが、体温が上がった理由は勿論それだけではない。
寂しそうに毎日を過ごしていたカントとエムシを見ていた女官は
フォレガータと久しぶりにゆっくり過ごせるようになった二人の子供達が
喜ぶ顔を浮かべたからだ。
まるで自分の事のように嬉しく思った女官は大急ぎで二人の子供達を呼びに行く。
その間に他の女官を呼びつけ大急ぎでお茶を庭へ運ぶ手配をさせた。
城の女官達の殆どはカントとエムシを気に入っており、
女王と同じように一人一人の顔と名前を覚えており気さくに声をかけてくる姫と皇子が大好きだった。

「カント姫、エムシ皇子」

「なんですか、今は授業中ですよ」

城の一室には歴代の皇子、皇女が勉学を学ぶ部屋が設けられている。
幼かったフォレガータもここで教師を呼び日々勉学に励んでいた。
今は城の外に身分に関係なく学ぶことができる魔術学院があるが、
魔術を使わない子供達は一般の学校へ通っていた。
エムシとカントはまだ幼いので魔術学院へいける年齢に達しておらず
ここで作法や国の歴史を学んでいるのだった。

「申し訳ありません、先生。ですが女王陛下がお時間に余裕ができまして、カント様とエムシ様をお呼びするようにと」

「そうですか。それならば今日はここまでに致しましょう」

目つきの厳しい女教師は開いていた教科本をぱたりと閉じた。
母の名を聞いた二人は目を輝かせて互いの顔を見つめたかと思うと
大急ぎで机に広がっていた筆記用具を片付けていく。 
綺麗になった机と椅子は持ち運べる程度の軽いもので毎日、授業が終われば部屋の片隅へ持っていき整頓するのだった。
どんなに急いでいてもそれだけは絶対に行うようにと厳しくしつけられている為
二人はいつもよりも乱暴ながら部屋の隅へ向かった。
そして女教師の前に並んで姿勢を正すとぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございましたっ」

「ありがとうございましたっ」

「はい、お疲れ様です」

教師がにっこりと頷くとそれが合図だと子供二人は女官の手を引いて母親の場所へと急かした。


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