本当はついてきて欲しかったとは言え無いしそんな事を言ったら
きっとまたタクトに笑われるのは目に見えていた。
何故なら今隣でやっぱりにやにやしながらウルズラも連れて行けば良かったのに
と言って来たからだ。

「ウルズラを連れてきたって危ない目に遭わせるだけだ」

「まあ確かにそうだろうけど…。モチベーションが違うだろ」

「俺だけ上がったってどうするんだよ」

「俺の心配してくれてんの?やさしいね〜キリちゃんは」

「人が折角…」

「はいはい、どーも」

くしゃりとさらさらの髪を撫でてやるとキリは鬱陶しそうにそれを手で払う。
キリが機嫌を損ねたのでそれ以上は言わないが、本当に嬉しかった。
実を言えば小さな頃からずっと一緒に過ごしたキリが
とうとう浮ついた話をしだして、ほんの少し寂しかったからだ。
もしタクトが言った通りウルズラを連れて旅をすることになれば今まで通りとはいかない。
キリはウルズラと二人っきりの時間を持ちたがるだろうし、
何より今まで使わなくても良かった気遣いまでしなくてはならない。
気遣いをする事自体はなんら問題はないが取り残されるあの感じはさすがに好きで無い。
いつまでもこうやってバカをやってたり出来なくなる日が来るのが
タクトには一番恐ろしいと感じるのだった。

「さっさと最後の南の魔女のとこに行くぞ」

「ハイハイ皇子様どこへなりとも」

照れ隠しとは気づいていないキリの隣に並んで歩き進む。
ナセガオを出て街をいくつか通り過ぎていくと
暖かな気候が二人の装備を軽くさせ、やがて立っているだけでも汗ばんでくるほどの
気温に表情がこわばる。
土の水分が少ないからか地面からはだんだん緑が減ってゆき
湿ったみずみずしさが無い、さらさらとした砂へと変化していた。
足を踏み下ろすと不規則に地面にめり込んで、バランスが取りにくくふらふらと
体を泳がせてしまう。
まっすぐに歩くのが困難な上この暑さとくれば体力が尽きるのも時間の問題だった。
ついに緑の茂る恵みの森を抜けていよいよ見渡す限り一面砂に覆われた世界へと飛び出した。
暑さをしのげる影になるようなものは見当たらず無慈悲に太陽が砂漠を照りつけている。
二人は風の精霊の道案内を頼りにひたすらまっすぐに進むのだった。

「なんかもう暑い」

「いや、最初っから暑いから」

「なんて言うか…暑い」

「わかった、暑いのは分かったから…」

二人は涼しげな顔で周りをふらふらうろつく風の精霊が視界に入る度に恨めしそうに睨み付けた。
もともと暑さで眉間の皺が増えていたところへ更にその皺を増やすと
風の精霊は面白そうに暑いのか?と尋ねてくる。
そうすると二人は取り繕う事もせずに暑い、では無くきっぱりと憎らしい、
と言い放つのだ。
それを聞いて殊更に面白いとけたけた風の精霊は笑って状況を楽しんだ。
風の精霊には気温は関係ないから、どんなに太陽の近くまで飛んでいっても
涼しげな顔をしている。
精霊の王へ敬う心を忘れているのかもともと持ち合わせていないかのような二人の態度は風の精霊にとって少しだけ新鮮であった。
アガタでさえ謙虚な姿勢をみせると言うのにこの子供達は
ずけずけと言いたい事を言い、風の精霊王を小間使いし、
あげくの果てには目障りだから引っ込んでいろと言う。
けれども契約で縛り上げる魔術師とは違ってないがしろにするわけでも
精霊を道具として扱っているわけでもない。
二人がお互いを友人だと認識しているように、風の精霊にもそうしているのが
何より一番嬉しくて風の精霊は逐一、二人に絡んでいるのだった。
そう言うところは彼らの師匠であるアガタから受け継がれたとても良い一面である。

『ほらほら、早く進まないと夜になってしまうぞ』

「簡単に言うな…」

『街までまだ遠いが、飛ばしてやろうか?』

「俺を殺す気か」

キリはじろりと風の精霊を睨み付ける。

「いや…ちょっとキリ頑張れない?」

「じゃあお前の魔力寄越せ」

「ふざけんな、俺のなけなしの魔力に謝れ」

タクトの魔力では大した足しにもならない事を知っているキリが
吸い取ってやるから、と付け加えるとタクトはいきり立つ。

『はははっ、人間は不便な生き物だなぁ?』

「うるっせぇえええ!」

「おい、仮にも風の精霊王に向かってなんて事…」

暴言を吐くキリをタクトが諫めると風の精霊は腕組みをしてうんうんと頷く。

『そうだぞ、お前達。もう少し敬う心を持て』

「…前言撤回。やっぱうるせぇ」

こうして3人?は似たようなやりとりを延々と繰り返して前に進み
時折わずかな岩陰を見つけては休憩して、あまり消費できない魔力を
ちびりちびりと使いつつ水分補給をしながら順調に街へ近づいていた。
一旦日陰に入るとなかなか出発する気になれないのが難点であったが
風の精霊が言っていたように夜になるまでには街へ入りたかった。
聞けば夜になると野犬や野党が出るらしく、昼間の移動でへとへとになった旅人達を
よく襲うらしい。
強靱な兵士でも疲労困憊して休息をとっているところを襲われてはひとたまりもないのだ、『ひ弱』なキリとタクトなどあっという間につるし上げられてしまう。
意識を失ってもいいからとにかく街へは入れと風の精霊は急かすし、二人も焦りが胸一杯に広がってついつい足早になり、ペースを崩していつも以上に体力を消耗していく。
つまるところもう限界だった。
だからわずかな変化にも反応できずにそのまま体を預ける事になってしまったのだ。

「なっ…!?アリ地獄!?」

「やばいやばい…!」

さらさらと地面の砂が一点をめがけて吸い込まれていく。
なんとかそこから這い上がろうとするが足下の砂はそれを許してはくれず
ゆっくり、確実に大きく渦を巻いていった。

「風の精霊!助けて…!」

『無理だ。お前の魔力が少ない』

「ですよねー!」

自分でも魔力が…と言うよりは体力も限界であったのはわかっていたので
首を横に振る風の精霊を見て呆れるより他がなかった。
アガタならきっともう少し考えて魔力や体力を温存して行動していただろうとか、
色々考えてしまってキリは自分の未熟さが悔しくてならなかった。
二人は砂に埋もれていく体を必死に動かしたが顔まで砂に沈んでいくと
なるべく砂を飲み込まないようにきつく唇や目を閉じた。
頭のてっぺんまで沈む頃には息苦しさですっかり気を失ってしまった。





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