キリとウルズラが家に戻った頃にはすでにタクトも帰宅していて
ウルズラの父と仲良く世間話などしていた。
戻ってきた二人をどうからかってやろうかと思案していたタクトは
すぐに出発すると急かすキリに驚いてようやくなだめて先を急ぐわけを聞き出した。
大体の話を飲み込んだ後、一番大切な事を彼女に告げていないキリに
タクトは納得いかなかった。
ウルズラにキリがノグ国の皇子だと言う事をキリは伝えていなかったのだ。
その理由と言えばまあ、可愛らしい返事が返ってくるものだから溜息しか出ない。

「俺が皇子だって言って尻込みされてフラれたらこれからずっと
ショックな気持ちのまた旅しなきゃいけないから、ヤダ」

「……バカだな」

「人が真剣に悩んでるのに…」

「つまり、気持ちは伝えて、なんとなく返事は貰ったけど
『ホントの答え』は貰ってないと」

タクトのじっとりとした視線が気になったがキリは気がつかないフリをする。
大慌てで大きめの包みを持って家から飛び出して来たウルズラは
早々に旅支度を済ませている二人にそれを差し出した。

「間に合った…!これ、お弁当。少しだけれどもお腹がすいたら食べて」

「有り難う」

「気を遣わなくてもいいのに…」

「ううん。本当ならちゃんとお礼もしなきゃいけないのは私の方なんだから」

「いやあ、それはキリちゃんがしたいって言った事だしぃ?」

にやにやとわざとらしく抑揚をつけた言い方をしてやると案の定
キリは少し気に入らなそうに顔を顰めていた。
てっきり照れたりするものかと思ったらウルズラは予想に反して
とてもまじめな顔で黙り込む。
からかいすぎたのだろうかとタクトが首を傾げると急に腕を引っ張られて
キリから少し離れたところまで移動し、声を潜めて尋ねてきた。

「ねえタクト、キリがこんなに自分に自信がないのはどうしてなの」

「さあ〜、性格じゃないの」

「あの人、モテるでしょう。器用だし」

「…よくご存じで」

女の子はいくつの時も勘が鋭いものだなあとタクトは感心して溜息を吐く。

「わかるわよ。でもそう言う人って普通はある程度自信を持っているものよ」

「まあ、もともと性格だよ。あれでも進歩したんだ。
ウルズラのおかげだよ。人助けを嫌がるタイプじゃないけど率先してする方でも無いから」

「どう言う意味?」

「他人の事は我関せず。興味の無い事も同じ。
でも興味を持つとどこまでも探求したがるからそう言うところは魔術師らしいかな。
だから俺から言わせればキリの前に現れてくれて有り難うとお礼を言いたいのは俺の方なんだ」

そう言ったタクトは本当に嬉しそうでウルズラは面食らってそれ以上は何も言えなくなってしまった。
どうにも性格以上のものがあるような気がしてならないが何か言えない事情が有るのか、タクトが話をはぐらかすのが上手で思うように踏み込めない。
一人蚊帳の外で話をされているキリがいい加減にしびれを切らしてタクトを呼んだので
二人は話を切り上げて不機嫌そうなキリのところへ戻った。

「そんなふて腐れた顔すんなよ」

「別に」

「じゃあ、気をつけてね二人とも」

二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けたウルズラが
小さくいってらっしゃいと呟いたら少しだけ暖かい風が頬を撫でた。






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