タクトに図星を指されもそれを行動に移す事が出来ないのがキリである。
ここから別行動を取るとタクトに宣言されたキリはそれはもう
蛇に睨まれたカエル、狐とかち合ったうさぎのように怯えた表情ですがってみたのものの
あっさり突き放されてしまった。
少し離れたところにウルズラを待たせていると言うのに
どうしようどうしようと狼狽えるキリにタクトはとどめを刺す。

「自分で何とかしろ。大丈夫だって。俺はちょっと用事出来たから二人で先に戻ろう
って言えばウルズラも変に勘ぐりはしないし」

「そう言うことじゃなくて…!」

「お前城で何やってたんだよ、社交場でそう言うの教わったろ」

「いつも隅っこでぼーっと」

「ぼーっとしてなんにも見てませんでしたなんて言ったら殴るからな、そりゃお前自業自得だバカ。本当は俺がお前に教わらなきゃいけないくらいなんだからな。腹くくれ」

タクトは言いたい事は言ったとキリの体を無理矢理ウルズラの方へ向けて背中を押す。
キリが未練がましく振り向くとタクトはもう人混みのなかに紛れていて
頭がかすかに見える程度だった。
確かに言う通り、自分が他人任せにいままで過ごしてきたのが悪い。
けれども父のアガタもそれで今までやってきていたからか
自分にも関係の無い事だとずっと思っていたのだ。
皇子であっても王位継承権は無いのだから尚更関係の無いのだとそう思っていた。
このままずっとここにいるわけにも行かないし、
自分もタクトのように用事があると言って別れたところで
困った事に帰り道がわからない。
今まで通ってた道もタクトの横をただなんとなく歩いていたからだ。
よくよく思い出してみればどこの町に行くにも自分にも地図を見せて丁寧に道を説明してくれていたのにも関わらず、
今回だけはウルズラの救出作戦からそれをしていなかった。
多分今の状況をタクトはなんとなく予想していたのだ。

「変なところで頭がいいんだ」

「?誰が?タクト?」

「あ、ええと、タクトは用事があるから俺達二人に先に戻っててって…」

「そうなの?じゃあ先に私たちだけ帰りましょうか」

ウルズラはそれ以上詮索せず道がわからないであろうキリを促して歩き出した。
細くて薄暗い路地を通ったり人でごった返す道をかき分けて進んだりしているのに
ウルズラとの距離は広がらずちゃんと付いてきているかどうか
時々キリに話しかけながら進んでいた。
もともと口数の少ないキリがさっきのタクトの言葉ですっかり無口になってしまっていた。
ウルズラに話しかけられてもああ、とかうん、とか短い返事だけで
それ以上会話を続ける事ができない。
何か沢山話したい事があるはずなのに声に出そうとすると喉の奥でつっかえてしまって
声がでなかった。
もどかしくて何度か顔を顰めていたキリに気がついてウルズラが心配するくらいだった。

(何から話したら…そもそも俺の話なんてつまんないだろうし…アガタとかタクトもこんな気持ちになったのかな…全然わからない…。なんかもう恥ずかしい)

「キリ!」

気がつくと見覚えのある大きな広間に出ていた。
ウルズラがまた心配そうな顔で覗いてくる。
一瞬何が起こったのかわからなくてびっくりしていたがどうしたのかと
尋ねられて自分がとても呆けていたのに気がついた。

「ねえ、大丈夫?さっき…タクトとなにかあったの?」

「違う、タクトは別に」

「私はタクトみたいにキリと長い時間いたわけじゃないけど、
なにか心配事があるなら言って?」

「…あの」

不思議と心臓は平常を保っていて、周りの雑音が急に消えた。
もしかしたら風の精霊がなにかしたのかもしれない。

「なあに?」







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