三人が城を去ってから暫くは騒がしかった。
キリが女装した踊り子の美女、キティちゃんに骨抜きにされた王はその後、
一番を心配していたウルズラを城へ召し抱える気にはならなかったらしく
血眼になって国中を、いや、国外をも探し回るように城中の人間や国民へ触れ回った。
ほんの数時間の出来事がとんでもない展開を迎えて戦々恐々としていたキリは
堂々としていろと背中を叩く友人のその自信が一体どこから来るのかさっぱり分からなかった。

「まあこれで俺たちがいなくなれば完全にわかんなくなるだろ」

「ほんっとに有り難う、二人とも…!」

「とりあえずよかったよ」

「お礼も満足に出来なくてごめんね…」

「だいじょーぶ。下心があってのことだし、な!キリ!」

「えっ、なんか下心あったの?タクト」

ウルズラは少し涙目になりながら本当に嬉しそうに両手を合わせる。
悲しい思いをさせずに済んで心底安心したキリの肩をタクトが乱暴に組んで
ニヤニヤしながら思わせぶりに言うのでタクトがそんな事を考えていたとは思いも寄らなかった。

「とぼけて〜」

「ちょっと本気で意味わかんないんだけど」

「えっ」

「なんだよ」

「えっ…えっ!?」

そうして次第にお互い何かがおかしいと感じ始めて距離を作る。
タクトは自分の考えていた事が全然通じていない…と言うか思惑が外れた事に、
キリはキリで彼がなにを考えているのかさっぱりわからない事に
困惑する。

「なんだよ、だから」

「本気?」

「だから、なにが!!」

「あれ……?」

「あの…下心って…お金?ごめん、うち余裕が…」

「いや!そう言うんじゃないから、大丈夫…!エーッ!?」

城を抜けたとは言え、まだまだ城下の範囲内。
人混みではあるものの声を上げれば誰かが振り向くぐらいには人と人には距離があった。
あまりに驚いたタクトが大きく声を上げたので町の人達数人が
何事かと不思議そうにこちらを振り返る。
さっきまでの行動もあるのだからなるべく目立たないように家に戻ろうと言った
タクト本人が騒いだのでウルズラもキリも慌てて口に人差し指を差して
タクトを道の端へと押し込む。

「おま、馬鹿じゃないのか!」

キリが声を潜めて言った。

「いや、こっちの台詞だから!」

タクトも今度は音量を下げて話す。

「だから何が言いたいんだよ!」

「だからぁ!」

タクトは自分からではなくてキリの耳を力任せに寄せて
ウルズラに注意を払いつつ更に声を潜めた。

「お前がウルズラを好きだから助けたくてやったんだろ、って話だよ!」

「…は……」

キリは雷に打たれたようで一気に言葉を失う。
否定したくても出来ないが肯定したくても出来ないようだった。
つまりキリ本人こそがその事に気がついていなかったのだ。

「…ウルズラの事可愛いと思うだろ」

「う、うん」

「学院の女子を思い出せ。可愛いと思うか?」

「可愛くないわけじゃないけど…うん」

「ウルズラが他の男と話してるとむかつかないか?俺でも」

「ウン!」

間髪入れずに返事をするとタクトが少し気に入らなそうな顔をする。

「そこは早ぇなおい。じゃあ、ウルズラが困ってると助けたいと思うだろ。
その辺の女子が困ってたら助けたいと思うか?」

「…そこまで他人に出来るほど余裕はない…」

「でもウルズラにはするだろ。じゃあウルズラ可愛いと思うか?」

「それさっきも聞いたぞ」

「そうだっけ、まあいいや。とにかく好きだろ」

「う……」

「なんでそれは詰まるんだよ」

「イテッ」

はたかれた頭をさすっていると二人の様子を見つめていたウルズラが
楽しそうに笑う。
会話は聞こえていないので何を話しているかわからない疎外感を感じているだろうと
思いながら彼女の方を振り向いたらタクトの言葉が
ようやく体の隅々まで行き渡ったような気分になった。




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