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アガタのそう言う、子供扱いするような口調がタクトは苦手だったが、友人であるキリは気にならないらしい。
さすが弟子と言ったところだ。
(『お願い』って………姿が見たい…頼む……)
特に何もしたわけではなく、アガタの言葉通り、姿を見せてくれと念じただけだった。
体の前に伸ばした腕の周りがほんのり暖かくなって、精霊が力を貸す独特の温度が感じられる。
勿論契約なんてしていないのでタクトは一瞬どうしていいかわからず、そっと隣に立つキリに視線を移した。
「なっ…?!キ、キリ…!?何呼んでんだよ…!?」
「ち、違う!俺呼んでないって!」
『未来の王だな』
「は!?」
「えっキリ王様になんの?」
『さしずめお前は王の騎士か?』
「へータクトもキリもすごいねー!」
キリの目の前には教科書でしか見たことのない、風の精霊の王の姿が宙に浮いている。
タクトの前に居るのは女性の体つきをしたかわいらしい精霊の姿がある。
アガタのすぐ肩の上にも女性の体つきをした精霊がいて面白そうにくすくすと笑っていた。
何が起こったのか理解できずにキリもタクトも現れた精霊に尻込みするばかりだった。
『未来の王、魔法の練習か?』
「風の王呼び出してどうすんだよ!」
「だから俺は知らないって!」
『気にしないで未来の王。風の王が気まぐれにあなたにあいたかっただけよ』
狼狽えるキリにアガタの呼んだ風の精霊がにこやかに笑いかけながら答えてくれた。
『会いたかっただけ』などと言われると少しくすぐったい気分になる。
それにしても未来の王とか、変な呼び方をしてくれる。
「風の王が未来の王って言うならきっとそうなるよ」
『アガタも私に言われて王になったわね』
「そ、そうなのか!?」
「はい、教科書の風の精霊の項を見る〜」
急に教師の口調になったのでやや驚いたが二人は持ってきていた鞄の中を大あわてで探り、教科書を開いて風の精霊の説明が乗っているページを開く。
「『風の精霊は、主に情報を司る精霊で、過去、現在、未来のあらゆる事を契約者に伝えるものである……』」
「未来の、王」
タクトが噛みしめるようにして呟くとキリは教科書から目を離し、まだ目の前で浮かんでいる風の王を見上げる。
風の王は長い髪を持つ男性の体つきをしていて、つり目がちな目が特徴だった。
にこりと笑ってキリの頭をふわりと撫でると頭のあたりがそよ風に包まれた。
「よかったねー!これで将来安泰!」
『お前は相変わらず風で遊んでいるのか』
「水は体力使うから」
『喰えないやつだな全く』
「キリすげー!」
『言ったでしょう?あなたは王の騎士よ』
「え?!」
タクトが顔を赤らめると自分の前に現れた精霊はころころと笑った。
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