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広間には次々にさまざまな楽器が持ち込まれ、演奏者も正装してそれぞれ配置についている。
天井につるされた照明はきらきら光って、広間の装飾品の宝石がその光を反射してまぶしささえ覚える。
広間にはナセガオ王と、その周りに近しいであろう臣下と恐らく来賓がそれぞれ着飾って談笑している。
音楽が始まると会話は更に弾んで時折楽しそうな笑い声も聞こえてきた。

(緊張してきた…)

タクトの作戦でいえばここからが正念場だ。
本日のメインであるウルズラが踊りの質を落としてもいけない、それ以上の踊りで王を魅了しなければならないのだ。
いよいよ踊り子たちが広間に集まり、演奏者達が楽器を構える音が一斉になって優雅な音色があたりに広がる。
来賓達は一瞬そのきれいな音に歓喜の声をあげたがまたすぐにそれぞれの会話に戻っていった。
着飾った踊り子がくるくるとしなやかに舞ってその中心にはウルズラがいる。
キリはなるべくウルズラの近くでとにかく必死に彼女たちの動きに合わせる事に集中していた。
そんな踊り子達の頭上で悠々と漂っているのが風の精霊だった。
風の精霊は、つまらなそうに暫く彼女たちと一人の少年の踊りを眺めていたがやがて
なにかにしびれを切らして踊り子達の間をゆらゆら移動し始めた。
そよ風が舞って踊り子達の衣装を絶妙に揺らし、それはそれは観客達の目には神秘的に見えた。
いつしかため息が聞こえるようになった頃キリは強く背中を押されて他の踊り子達よりも更にウルズラよりも前に出てきてしまった。
一番びっくりしたキリは折角一生懸命に覚えた踊りが頭の中が真っ白になり忘れてしまい、どうしていいかわからずそこに立ち尽くすと今度は手足が勝手に動き出す。
頭の少し上を見上げると得意げに笑う風の精霊がいた。



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