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『…まあ今後何かの役には立つかもな』

「絶対にならない」

小さな声で呟くと近くにいた別の踊り子が少し驚いて何か言った?と振り向く。
キリはにこりと微笑んで首を横に振った。
彼女が驚いたのはここで聞こえるはずが無い男性特有の低い声が聞こえたような気がしたからだ。
キリは笑って誤魔化すとなるべく他の踊り子達から離れるように部屋の隅へと移動する。
ウルズラは、その踊り子の一番前で王が表れるのを少し緊張した面持ちで待っている。
結局、タクトの作戦を実行する羽目になったのだが、ウルズラを迎えに来た兵士を上手く丸め込んだタクトの話術は実に感心するものだった。
いつのまにこんなに上手く話をする技を身につけたのかキリも思わず凝視してしまっていたが
ウルズラに同行させて欲しい踊り子がいるとすっかり女の格好をさせられた状態で紹介された時は、彼が学院で女子に人気があるとささやかれているのがわかった気がした。
とにかく女装したキリを褒めちぎるのだ。
それも無理がなく、かと言って謙虚すぎず、ウルズラを迎えに来た兵士達を
どんどんその気にさせてついにはウルズラよりもキリをごり押しして同行させるように頼み込んでいた。

(俺が城で作法を教わってる間に、タクトはタクトでいろんな事を見聞きしてるのか)

世渡りがどんどん上手くなっていくタクトが少し羨ましくてぼーっとそんな事を考えていたキリは
近づいてくるウルズラに気がつくのが少し遅れ、二、三度呼ばれてから慌てて
顔を上げた。

「大丈夫?」

一つ頷くとウルズラもさすがに不安そうにキリをのぞきこんで来た。
いくらタクトよりも華奢とは言え女の子に囲まれるとさすがにがっしりした印象がぬぐえない。
なんとか衣装で誤魔化してはいるが時々そんなキリをちらちらと見てあざ笑う踊り子もいた。
ここもノグ国の城と同じ。
相手をいかに陥れて自分が這い上がるかの世界なのだ。

(ウルズラはこんなにも素直なのに)

これだけ悪意に充ち満ちている場所で自分の信念を貫き、人への思いやりを忘れないウルズラが本当に強く見えてキリは改めて彼女を見つめ直す。

(……うなじ、きれいだな。腰のラインもきれいだし。声も可愛いし。
良いにおいだし…………でるとこ出て……)


そこまで考えてキリはとてつもなく罪悪感に襲われてうなだれた。
そうして出来れば誰かに殴って欲しいとさえ思った。





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