10
風の王から詳細を聞き出したキリは、急いで家の中へ戻るとウルズラに事情を説明した。
ウルズラは話を聞いているうちにだんだん顔色が真っ青になっていくし、
ウルズラの父親は椅子にうなだれてしまって言葉も発しない。
ただ黙って聞いていたタクトが素っ頓狂な声を出さなければ恐らく誰も言葉を発しなかっただろう。
「ウルズラは踊り子として城には行きたいけど嫁には行きたく無いんだろ?じゃあ行かなきゃいいんじゃね?」
「そ、そんなの簡単に断る事なんてできないわよ…!まして国王様よ!?」
「だってウルズラは嫁に行きたく無いんだろ?」
「それは…そうだけど…」
「じゃあ行かなくていいよ」
キリはタクトの意見に賛成と念を押すように言った。
あまりにも二人がこともなげに行くな行くなと言うので、ウルズラもウルズラの父親も
気が抜けてしまう。
「まあ、俺も簡単にいかなくていいなんて言ってるけど、キリ、行かないとそれなりにごたごたすんのわかってる?」
「うん」
「どーする?」
タクトの『どうする?』とは、キリの立場を使えば或いは、上手く彼女を王の后か側室にするのを防げると言う意味だ。
キリもそれは十分に理解しているがメルンヴァでも自分がノグ国の皇子だと言う事は伏せてもらっていたのでできればここでもそうしたい。
返事を待つタクトにキリは少し表情を硬くして首を横に振った。
「出来れば穏便に済ませたい」
「だよなぁ?じゃあさあ俺すっげーいい考えがあんだけど!」
キリの返事がわかっていたタクトはそれはそれは楽しそうに両手を合わせる。
あまりにも楽しそう…と言うかとっても悪巧みを考えている風なのでキリは少し嫌な予感がする。
小さい頃から何か悪戯をしようと言い出すのは必ずタクトでその度に、
キリは頭を抱えて彼の後ろから襟首を引っ張ってそれを止めるのが役目だった。
大きくなってから立場が逆転したようにタクトがキリの襟首を引っ張るのだが、
こうなるとキリでも彼を止められる話術を持ち合わせていないため必ず丸め込まれるのだ。
「何?」
「聞きたい?」
興味津々のウルズラに頼むから聞かないでくれと心の中で願った。
「キリが変装してウルズラの代わりをやればいいんだよ」
「はぁ!?なんで俺が!!」
「だって、ウルズラは踊り子として城に行くのはいいけど嫁に行きたく無い。でも行かなきゃ行けない。だったらウルズラよりもすっげー美女がすっげー踊り見せたら王様もそっちに気がいくだろ?で、ほんとにそんな人探すのは骨折りな上にその人が王様と結婚したがるかどうかって問題もある。そもそも俺らには時間がない。じゃあ架空の美女を作ってその場だけの踊り子をキリが演じれば…」
「だから!なんで俺!」
この数分の間にそれだけの事を考えていたのは感心できるが
その話の矛先が自分に向いているとなると話は別だ。
作戦としては、今の状況では一番ベストかもしれないが多少無理がありすぎる。
大体男の自分があんなひらひらした布を被ってしかも人前で踊るだなんて
絶対に出来るはずが無かった。
キリは非難の声を上げたがタクトはもうすでにその気になっており、
なだめるようにキリの両肩に手を置く。
「俺ガタイいいし。キリ華奢だし。喋んないで化粧でもしたら大丈夫だって!露出の少ない衣装だってあるんだろ、ウルズラ?」
「ある事には…あるけれど…」
「踊りは精霊に誘導してもらえばいい。まあこの短時間で覚えられるならそれも必要ないとは思うけど。どうする?これ以外の策があればそれでもいいし。
やらなきゃあウルズラは王様の嫁決定だな」
「このやろ……」
「お口が汚いぞ、キリくん」
かしこまった声で言われると尚更に腹が立つもので、
それ以上に彼の考え以上の良い案が浮かばない自分に腹が立ったキリだった。
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