夜遅くに帰宅したウルズラの父親に不審者と間違われた上、家には知らない少年が上がり込んでいるわでちょっとした騒動になったが、
なんとかその場を納めると今度はウルズラの父親とキリ、タクトの三人で宴会状態に発展した。
ウルズラを助けたキリへ何度も礼を述べ、キリとタクトは鍛冶職人のウルズラの父親の話を聞くのが面白く、質問しては答え、質問しては答えを繰り返して何時間も話し合っていた。
もともと口数の多くない父がこんなに楽しそうに誰かと話すところを見られたウルズラも羽目を外し気味の父親には目をつぶっている。
結局、外の小屋へ寝床を作ったのにもかかわらず三人はそのままテーブルへつっぷして爆睡し、ウルズラが三人へそっと毛布をかけて自分も部屋へ戻って眠りについたのだった。
朝になるとどこからともなく良いにおいがして、台所からはせわしなく何かが動く音がする。
しばらくそんな音を聞いておらず、城に入ってからは侍女達がキリが起きそうな頃、または学校へ行くのに支度込みの時間の頃に起こしに来てくれていた。
アガタの足音にしては軽やかだなあと夢の中でふと思っていたが不意にキリは眠りから覚醒してもたげていた頭を慌てて上げた。

「あら、おはようキリ」

「…?!?!」

「どうしたの?」

「…誰」

「えっ」

「ばーか何寝ぼけてんだよ。お前ん家じゃねーぞここ」

すでに起床して毎日欠かさない剣の朝練も済ませたタクトが背後から声をかける。
キリは、しばらく頭を抱えたり目をこすったりぼーっとしながらも
徐々に覚醒していっているのかゆっくりと頷いてのろのろと行動を起こした。
顔を洗うために外の井戸へと向かい、冷たい水をくみ上げて手のひらにすくうとそれだけで体がしびれる。
一気に脳と目が覚醒したキリが顔を洗ってタオルで水分をぬぐっていると耳元にひやりと風がながれる。
冷たい水に触れていたせいで更に冷たさが増した気がした。

『未来の王』

「…なあその呼び方やめろ」

『…そうだな、私は『王』に従っているのではないのだったな。ふむ。
お前がたとえ王でなくても、私は『お前』に従うのだしな…』

「や、べつに従わなくてもいいんだけど」

『翁の弟子は本当に面白いな』

「はあ」

『それではキリ。改めてこの国の王の使者が娘を迎えに来る』

「ああ、踊り子として城に行けるようになったんだっけ?」

『娘はそのつもりかもしれないが、王は娘を側室として囲うつもりだぞ』

「えっ嫌だ」

『………(そこでお前の口から嫌だと言う言葉がでるのか)』





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