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誰か知らない人やそれに近しい人といるときは必ずタクトやアガタと一緒だった。
だから必要以上に自分の事を話す機会もなかったし、相手の話に合わせて
談笑することも無い。
タクトはそう言う事は得意だがアガタは本当に必要最低限の話しかしなかったので
キリもそう言うものだのだと思い込んでいた。
けれど町や村に行けばそんなものは常識とは酷くかけ離れていたものだと知る。
いかに自分たちが隔たりがちであったのか、いかにあの空間が異様だったのかも。
「キリは話すのが苦手?」
「うん」
「そっか…キリは魔道師なのね?タクトは…そうは見えないけれど」
「うんタクトは魔法剣士の今はまだ見習い。俺もだけど」
「ノグ国は軍事の国ですものね、見習いで杖も使わずに魔法を使えるなんてすごいわね」
ウルズラがゆっくりとした口調で色々話してくれる。
自分の家族のこと、踊りの事、キリの魔法の力の事。
彼女の家族は父親のみで母親は幼い頃に病気で亡くなったそうだ。
以来、家事を父親と分担して、父親が仕事に出ているときにはウルズラが、ウルズラがアルバイトや踊り子として家をあけているときは父親が家を守っていたらしい。
ほんの少しだけ自分達の生活に似ていてキリはちょっぴき興味を持てた。
「キリの家族は?」
「えーと父親と、母親と、妹と弟」
「たくさんいるのね。キリは両親のどちらに似てるの?」
「俺は…どっちにも似てない。性格は父親に似てるって言われるけど」
「それじゃあすてきなお父さんね」
「うん…?」
部屋の明かりが漏れる窓枠からそっと中をのぞき見てタクトは苛立ちから
怒鳴りつけてしまいたい衝動を必死に押さえていた。
真っ暗な夜の外は冷えるが、それでも友人のもしかしたら恋路に発展するかもしれない貴重な場面である。
それを邪魔するなんて親友失格では無いか。
(それにしてもほんっっとーに鈍いなあいつ!!わかるだろ!!
あれはわかりやすいパターンだろ!!)
キリは、もともと人の気持ちというものに疎いところはある。
人里離れたところにひっそりと変わり者の魔術師と一緒に住んでいた所為もあるだろうが、それ以上にキリ自身が天然と言うか空気を今ひとつ読めないというかそんな節があるのでその度にタクトがフォローをしてきた。
今まではそれで済んでいたがこれからはそうはいかない。
仮にも一国の第一皇子なのだから、これから相手の気持ちや思惑を瞬時に読み取る能力がどうしても必要不可欠になってくる。
練習と言ってはウルズラに失礼ではあるだろうがキリにとってはとても大切な『訓練』だった。
ウルズラもどうやらキリに好意を寄せている風なので一石二鳥と言えるのだが。
(アガタはそう言うの結構ピンときて避けるタイプだったけどこいつなあ…こいつはわらわら寄ってくるのを怖がるタイプだしなあ)
つまり大いに鈍いのであった。
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