タクトが入浴を済ませ、キリも落ち着かない気持ちであったが入浴して浴室から出ると、さっきまで風呂の釜焚き番をしていたタクトがすっかりくつろいで、ウルズラと一緒にお茶を飲んで談笑していた。


ちょっぴりムッとした。


「…なにちゃっかりお茶飲んでんの」

「いや、だってあっちさみーし」

「ええと貴方も飲む?」

「…いらない」

「まーまー。飲んどけって。寝る前に体暖めておいて損しないから。それじゃあ俺
寝床作ってくる」

まだ体から湯気を立てているキリをタクトが座っていた椅子に無理矢理座らせるのでウルズラのお茶を断ったキリは、一緒に行くと申し出た。
しかし、言い切る前にタクトはそれを遮ってキリの耳元へ顔を寄せる。

「まだ父親帰ってきてないらしいし、いくら隣に俺たちがいるからって女の子一人じゃ危ないだろー?」

「でも今までも留守番だってしてきたんじゃ…」

「ばか!今日は祭りで人多いんだし、ウルズラだって踊り子として大勢の前で踊ったんだから顔がしれてるだろ!」

「ううん……」

妙にキリをウルズラと一緒にいさせたがる風があるように感じられるのだがタクトの言葉も一理ある。
それにしても自分たちはどうなのかと言う疑問はもとより彼らの中には存在しないので問題にすらならないようだ。
無理矢理に納得させられたようで釈然とはしなかったが元々城の魔法剣士志願のタクトの責任感が出たのだろうと思い、しぶしぶ頷く。
ぼそぼそと話し込んでいる少年二人を見ていたウルズラは、お茶をカップに注ぎながらくすくすと笑う。
高い笑い声が聞こえて二人でそちらを見れば少女と視線があって少女は少し恥ずかしそうにごめんなさいと呟いた。

「あなたたちほんとに仲がいいのね」

「まー小さい頃から一緒だしなあ」

「そうなの。それじゃあタクトがお兄さんでキリが弟かしら」

「は?!俺が兄さんだから!」

「お前のどこがにーさんだよ。いやまあ確かににーさんだけど」

ウルズラが首を傾げる

「キリは、お兄さんなの?」

「歳の離れた妹と弟が」

「タクトは?」

「俺は一人っ子」

「なんだか逆みたいねえ…」

ふうん、とウルズラは不思議そうに呟いた。
キリは注いでもらったお茶に口をつけ、さんざん絡んだタクトは寝床を作りに
隣の小屋へ向かう。
急に静まりかえった家でキリとウルズラ二人が取り残されてほんの少しだけ
居心地の悪い空気が流れる。
居心地が悪いと言えば語弊があるが、とにかくキリにとっては今すぐにでもタクトの元へすっとんで行きたかったのだ。






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