仕事を終えたウルズラが案内してくれた『小屋』は、
キリ達が住んでいた家と同じくらいの広さで、中は少し埃っぽかったものの、
窓を開けて掃除してやれば寝泊まりするは十分であった。
家にはまだ父親が帰ってきておらず、挨拶もする前にウルズラはてきぱきと掃除しながら家の中から布団を運んでいった。
小屋はウルズラの家から2、300メートルほど離れたところにあり、元々は父親の仕事道具を保存したり、冬場には野菜や穀物を貯蓄している場所だ。
二人はウルズラの手伝いをして自分たちの寝床を作り、完成するといつの間に沸かしていたのかウルズラがフロに入れと急かしてくる。

「着ているものも洗濯しちゃうから、ほら脱いで脱いで!」

「あの、ウルズラ…」

「ぬるさは多分丁度いいと思うから。着替えは父のだけど使ってね。その間に洗濯してしまうから明日には乾くわ」

「「…ハイ」」

有無を言わさずに指示を出してくるので二人は言葉も挟めずにただ頷くしか無かった。
一人が温度調節の為に、外で薪を燃やす係として、先にタクトが入浴することになった。
キリは風呂場の釜がある、家の裏へ回りぱちぱちと音を立てる釜の火を見つめながらその場にしゃがみ込む。
浴室内からタクトが声をかけてきてキリは自分の仕事に取りかかる。
城に入ってからは風呂釜の火力の心配などする必要が無かったので久しぶりに風呂釜の見張りをするのはいささか不安はあった。

「…おちつかねえ」

「?お湯熱くしようか?」

「そうじゃなくて。人ん家ってあんまり…」

ノグ国には家族と同居しているとは言え女性の家に上がると言う習慣が無い為
浴室だけ借りる事になったとしてもそれでも居心地はどこか悪い。
タクトがそわそわしている理由が十分理解できるキリは、このあと自分もそんな気分になるのだと考えると急に緊張が増してくる。

「…お前さあ、城に住むって決まったときどんな気持ちだった?」

「……めんどうだと思った。本が読めるのは嬉しいけど」

「アガタが結婚したのは?」

「びっくりしたけど、アガタが他の人に気を許すとかあんまりないし」

「…まあそうだな。フォレガータ女王陛下くらいだなあいつと結婚するとか仰るのは」

「でも何人かは村の女の人がアガタのとこに来たんだよ」

「マジで!?」

「その度にけちょんけちょんにして泣かして帰してたけど」

「うわあやりそう」

これから城で住むと聞いたときは、頭の中が混乱してしばらく整理ができないでいた。
1年に1度か2度行く程度の城下町は目が回るほどに人であふれかえっているし、
町の中心部には天高くそびえる王城があったがそれもキリにとっては他人事でそもそも本当に人が住んでいるなんて実感もわかなかった。
ただ死ぬまでずっと森の家に住み続けるのだと不思議もなくそう思っていたので青天の霹靂であったのは確かだ。











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