「どうして俺がこんな事するかって言うのは前に言ったよね」

「うん」

「『植物は魔法を助けてくれる』」

「それから『動物たちは精霊を呼ぶときに手助けしてくれる』」

「よくおぼえてたね…」

感心した、と頷いてアガタは自分の他に、キリとタクトの分のじょうろも用意して植物園の中を移動始めた。
二人はその後をついていくとたどり着いたのは小さな畑でそこにはおいしそうな赤くて小さな果物がなっている。

「その果物の葉を良く覚えること。その果物が一番魔法を助けてくれる、人間で言うとフレンドリーってやつ?」

「これ、なんの果物?」

「赤バナナ」

「あの、バナナパイの?」

「うん」

バナナパイと言えば甘酸っぱくておいしい、ノグ国ではポピュラーなお菓子でクラスの女子達がよく食べさせてくれるのもそれだった。
市場に出回っているのはその実だけでこうして殻が付いた状態を見るのは二人とも初めてだった。
まじまじと小さな実を観察して二人はアガタの話に耳を傾ける。

「あとはサクラの木。サクラの木は秋にしか咲かないけど…それでも気持ちが優しいからきっと手伝ってくれる」

「なあ、なんでアガタは精霊と契約しないんだ?」

「契約すると体力使うから。つかそんなもんしなくても力貸してくれるんだよ。気まぐれだから貸してくれないときもあるけど」

「…じゃあ貸してくれる確証を得るために契約するってこと?」

「うん多分。俺したことないから知らないけど」

教師としてはとても頼りない回答をしてもらったが二人はアガタの言っている意味を少し理解できた。
他の先生の授業で一時的に契約をして精霊から力を借りるのだがその時の体力の消耗は尋常じゃない。
慣れてきて、魔力が増えれば気にならないと言われたがそれまでは相当苦労しなければならないだろうと感じた。

「まあ、契約するかしないかは二人の自由だし。今言った植物は契約してようがしてまいが覚えておいて損はないと思うよ」

「…契約しないでどうやって精霊の力を借りるんだよ?」

「…契約しないの?」

「俺はしない」

「俺も…できれば体力は剣術の方に回したい」

「あら、タクト君は魔法剣士志望ですか」

にやりと笑ったアガタがおもむろに腕を目の前にまっすぐ伸ばすと腕の周りにうっすら風の渦が出来た。
精霊が力を貸しているのだと瞬時に理解してキリとタクトは食い入るように見つめる。
精霊の姿と言うのは魔力の強い人間でなければ見えないのでその姿が見えたときは上級魔術師として色々な職業に就く時にかなり有利になる。

「…見えねえ…」

「見えないのは精霊をモノとしてみてるから。彼らは彼らと対等な人にしか姿を見せてくれないよ」

「魔力が弱いから…?」

「違う。キリ、タクト。心の中でもいい。言葉に出してもいい。お互いに何かをお願いするように精霊にお願いしてご覧。口なんて悪くたっていいから。力を貸してって」

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