タクトがリストを作ったメモの店の名前の上に悔しそうに線を引いていく。
同じように線が引かれた宿屋はこれで5件目で、残りは2件だ。
どこも大きな宿屋でかなりの人数が入るのだが、時期が悪かったのか、観光客の予約で満室なのだそうだ。
この調子では残り2件も望みは少ないと唇を噛んでいた二人だが、テンポの良い音楽が聞こえてきてふと足を止める。
そこは丁度広場のような開けたところで真ん中に特設で作られたようなステージがありステージの上には、露出の高い衣装を身にまとった踊り子たちが10人ほどたっている。
ステージをぐるりと囲んで人だかりができており心なしか男性の方が多かったが時々子供の声も聞こえてくるのでおそらく子供をダシにして踊り子を目当てに子供たちの父親が集まっているのだろう。
下心が見え見えだったがキリもタクトもそんな下心見え見えの父親の気持ちがわからないでもなく、どちらからとも言わずにステージに近づいて行った。

「さあ!本日は!国王陛下御用達の踊り子たちの舞を是非ご覧いただきたいと思います!」

司会の男が声を張り上げて叫ぶとステージの横で準備していた音楽家たちはさっきまで演奏していた音楽とはまた少し違った曲調の音楽を奏でだした。
なめらかに流れる主流メロディに合わせて踊り子たちは一糸乱れることなく手足を動かしてステージの上で舞を踊る。
どうせなら最前列で見てやろうとキリとタクトは人々の間を無理やりに進んで、時々子供を連れた父親に睨まれたり舌打ちされながらもうようやくステージの前までたどり着いた。

「かわいいな」

「うん。いい匂いがする」

「ノグじゃあんまり見ない衣装だな。南国っぽい」

腹を出して、胸は白いふっくらとした布で覆い、ズボンも空気の含まれたような裾が丸くなっている衣装で肩には薄いレースのショールがくるくると回る度に風になびく。
ぼーっと見とれながら踊りを見ていると踊り子の一人が舞台から飛び降りてきた。
いや、飛び降りてきたと言えば語弊がある。
何かの拍子に躓いたのか、誰かとぶつかった勢いなのか、彼女はまるで意識したようにキリの方へ落ちてくる。
キリはとっさに手を伸ばして彼女の体を支え、落下の拍子に怪我がないようにと風を起こして踊り子の体を浮かせて衝撃を和らげた。
もともと体が軽いのか、ふわりと地面へ足をつけるとびっくりした様子でキリを見上げる踊り子へ、いち早く声をかけたのはタクトだった。

「大丈夫?」

「は、はい、ごめんなさい、私…!」

「このままステージに上がれるよ、急いで」

「え?きゃッ!」

抱きとめたキリが踊り子の背中をトン、と押すと踊り子は押された勢いのまま宙を舞い、そのままステージへ上がりきった。
軽々としたその動きに観客たちは喜び、ワッと歓声を上げる。
魔術師で無ければわからないような、一般市民には不自然に見えない程度の魔法を使ったの誰も首をかしげはしなかった。
この機を利用して落ちた踊り子は戸惑いながらも笑顔を浮かべてまだ踊りの輪に溶け込んでいった。

「キリが役得だったみたいだし。残りの2件行くか」

「別にそんなんじゃ…」

「嬉しかった癖…」

タクトが言いかけたのをやめた途端、後ろのステージの方からまた短い悲鳴が聞こえてきた。
今度は別の踊り子がステージの上で転んだらしいが、ステージの方を向いてから微かに精霊が動いた気配を感じたタクトは、何の反応もしないでさっさと進んで行くキリの横まで小走りで追いつくと横目で親友の表情を覗く。

「何したんだよ」

「あの子がさっきの子突き飛ばしたんだから。おんなじ目に合うくらい、いいだろ」

「…女って怖ぇけどお前もよく気がついたな…」



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