ノグからメルンヴァまでにはあまり整備された道がなく、通るのに苦労したがメルンヴァから西は、交易が盛んらしく、どの道を通っても道が整備されていてとても歩きやすい。
それに加えて、魔物も野党とも遭遇する回数が少なく旅人には安心して往来できるようになっていた。
道の途中には旅人が休憩しやすいようにと一定の間隔で茶屋や、小さな宿屋が点在しており、見知らぬ道だと言うのにさみしさが感じられなかった。
心なしかすれ違う旅人達の表情も晴れやかで目的地へ向かうよりも寄り道をする方が楽しそうに見える。
そしてなにより、子供連れの家族が目立っていた。

「子供も多いんですね」

「あんたたちいいところに来たねぇ。丁度ね、ナセガオの初代王様の誕生祭の時期なんだよ」

「王様の誕生祭ですか」

「ナセガオでは初代王は英雄だからね。中央では踊り子が踊りを踊ったり、ビアガーデンなんかもやってるから楽しんでおいで」

たった一杯お茶を飲んだだけなのに店のおばさんはそれは丁寧にナセガオと言う国について話してくれた。
話に夢中になってお茶が冷めるともう一杯と温かいお茶を注いでくれる。
どうやらこの店ではこのおばさんの話を聞いている人限定でおかわりは無料のようだった。
周りにいた他の客がおかわりを頼むときっちりその分の料金を取られていたのでキリたちはうまい事おばさんに『捕まった』らしい。
常連客にはつらいかもしれないが初めて訪れる客としてはこのあたりの風習や雰囲気を説明してくれて尚且つお茶はおかわり自由とくれば言う事なしだ。
大体の話を聞き終えたところでおばさんに市内の地図を貰い、店を出た二人はおばさんが教えてくれた通り、ナセガオの国全体がお祝いムード一色でどんなに小さな店でもどんなに貧しそうな民家でも、
ナセガオの国旗を建物の玄関に掲げていてやってくる旅人達にあいさつをしてくる。
それこそ満面の笑みでしてくれる人もいれば仏頂面でしてくる人もいて様々だが国全体が浮足立っている事には変わりなかった。

「すげー人だな」

「うっ、苦し…」

「あーあー、どっか壁側移動すっか」

王城に住んでいるくせにどうにも『都会慣れ』していないキリに苦笑してタクトが腕を引きながら上手に建物の壁際まで移動する。
ほんの少し、流れからそれるだけでこんなにも違うのかとキリは先ほどまでいた人ごみをぼーっと見つめる。

「タクト、もしかして無理して俺についてきたんじゃない、痛っ!」

「無理してついてきてねーよ変なこと言うな」

「…だって陛下に頼まれたって」

横で茶屋のおばさんから貰ってきた地図を広げ、宿屋の位置を確認しながら器用にキリの足を蹴ったタクトへ
キリは、拗ねた口ぶりでぼそりと呟くとようやく親友は顔をあげてこちらを見てくれた。
ただし、盛大にあきれた顔をしているが。

「親だし、お前皇子だし、そりゃあ頼むだろ。けど俺は陛下が頼んでくる前からあそこにいたんだよ」

「もし、陛下の信頼とかが欲しいんなら俺が頼んで」

「俺が誰かに信頼して欲しいと思うならお前だよ。影でみんなに言われてる身にもなってみろ馬鹿」

「なんか言われてんのか!?」

「『取り繕うなら陛下に直接取り繕えばいいのに、闇の魔術師の弟子なんかの周りをちょろちょろしてる無駄な事している馬鹿』だってよ」

「う…ごめん」

「いいんだよ馬鹿で」

小さなころからずっと一緒でキリが王城へ引っ越すと聞いて一生懸命勉強して
一緒の魔法学院へ入学してくれて、避けるようにキリの周りを通り過ぎる生徒たちとは違い、変わりなく友人として接してくれる。
女王の息子になった後も暫く遊んだりしていたが彼の両親が諌めたのか急に改まった態度になったり、それを笑い飛ばされて結局いつものタクトに戻ったり。

彼と出会えて本当によかったと心の底からキリは感じていた。

「そうか」

「そうかじゃねえよ。キリだって今に俺みたいな一般庶民と一緒につるんでって貴族に笑われるぞ」

「俺は慣れてるからいいよ」

「慣れるなばーか」

「俺たち馬鹿同士だ」

「丁度いいだろ」

「うん」









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