気絶させてしまったイオウを心の隅で気にかけながら、タクトと白鷹をひっぱって風の精霊の王に手を借りてここまで逃げてきた。
人を二人も運ぶとなるとそれなりに体力を削られるので白鷹のいた長屋まで一っ飛び、とは上手くいかず、少し手前の民家が少なくなってきた街のはずれあたりに降りることにした。
大変な思いをして二人を連れてきたというのにタクトは不満タラタラのようでキリは疲れ果てた体をようやく支えながら彼の抗議の声に反論する。

「飛ぶなら飛ぶって言えよ!」

「あの場合飛ぶしかないだろ!」

「心の準備がいるんだぞ、アレ!!!」

「お前ら喧嘩するのはいいが、問題はそこじゃないぞ。なんでお前四大魔術師じゃないんだ?」

「「えっ」」

「魔法で空間を移動できるのは四大魔術師かそれ以上の魔術師だ。それこそさっきの西の魔術師なんて4人の中じゃ最弱じゃないのか?」

白鷹が心底不思議そうな貌をするのでキリとタクトも思わずきょとんとして互いの顔を見合わせる。
魔法学校での授業でそんな事一言も言っていなかったし、水から水へ空間を移動するのはアガタがもともと当たり前のようにしていたので何も不思議には感じなかった。
魔法が使える人間であれば訓練すればだれでもできるものだと思っていたのだ。

「…面白い奴らだな、お前らは。まあ俺は貴重な体験ができたし、戻るぞ」

「えっ、送ります」

「ガキじゃねぇんだ。一人で帰れる。ここまでくれば奴らも追ってはこないだろうしな。…そもそも追う気もないようだったが」

「面倒に巻き込んですいませんでした」

「子供は大人に迷惑をかけるもんだって昔から決まってる。
それにお前は少し遠慮しすぎるな。そっちのボウズの方が大人ぶってるがよっぽど子供らしいぞ。まあまた近くに寄ったら長屋に顔を出せ。歓迎するぞ。お前が未来の四大魔術師の一人になる日も遠くないだろうからな。アガタ以外の魔術師を知り合いに持っておくのも悪くない」

人通りが少ないせいか、あたりは新雪が降り積もったままで足跡一つ見当たらない。
白鷹は、言いたいことを言いつくしたのか一人雪道を進んで長屋へと戻って行った。
ただただ手間を取らせてしまっただけのように感じて申し訳なさそうにその大きな背中を見つめているとタクトは気にするなと肩を小さく叩いて先へ進むのを促す。
白鷹のような人間と接するのは初めてだったので最初は戸惑ったがそれ程嫌な感じはしなかった。
ぐいぐい押してくるような気質がほんの少しだけ、フォレガータに似ているようなそんな気がした。

先に進もうとして自分たちの荷物が宿屋にまだあるのだと気が付いたのは少し歩いてからだった。
二人とも手荷物の事をすっかり忘れていてこれから取りにいくとなると、と悩んでいたら少し先に立っていた細い木の根元になにか黒いものが置いてあって近づいていくと二人の荷物だった。
荷物のかばんに着けられたメモを見つけて読んでみると『忘れ物です』と小さな字で書かれている。
カバンの中身はすべて入ったままで何かとられたようなものもなく首をかしげていると
風の精霊がキリへ耳打ちしてイオウが西の魔術師に頼んで寄越したのだと教えてくれた。

「…帰ってくる時、お礼しないとな」

「うん」

それぞれの荷物を背負ってメルンヴァの国境を目指す。
次に向かうのは本来、西の魔術師がいるはずだった国だ。
彼は不在だがどちらにしろ南へ南下する為に通らなければいけないので
二人はまず南の魔女の情報を得る為に中心都市へ向かうことにした。




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