17

彼らの目的はただ一つ、
盗賊団の頭領である白鷹を捕まえることだ。
どんなに屈強な白鷹であろうとも多銭無勢では手も足も出ない。
実際一歩歩み出ようとするだけで何人もの兵士が反応して槍の先を近づけてきた。
他の兵士たちには言わないで欲しいとイオウには言っていたはずなのにとキリはすぐさまイオウへ視線を移したが彼もまた驚いた表情のまま仲間たちを見つめていた。
問いたださなくてもわかるくらいイオウは、どうして囲まれているのか理解できていない様子だったので白鷹の情報を流したとは考えにくい。
恐らく兵士の隊長であろう人物がいかにもと言った態度で一歩前へ出るとその陰から宿屋の店主が顔をのぞかせた。
それでキリたちはどこから情報が漏れたのか察知すると次の問題への対策を考えなければならなかった。

「白鷹、観念しろ」

「待ってください。彼は何もしてないんです」

「今は何もしていなくてもこれまでの罪状があります」

「ふん、俺一人だからなんとかなるだろうと思っているところがすでに甘いぞ小僧ども」

白鷹は、にやりと白い歯を唇の隙間から見せるとぬっと太い腕を伸ばして一人の兵士の腕ごと槍を掴んで引っ張る。
子供のようにいとも簡単に引っ張られた兵士は、自分の武器を奪われると槍を振り回すついでに一緒に振り回されて壁になっている仲間達の方へ投げ飛ばされた。
あまりにも豪快すぎてあっけにとられているキリの肩を叩いたのはタクトでこの機を逃すまいと自分も剣を引き抜いた。
騒ぎにするつもりなどなかったのにと小さくため息を吐いたがようやく腹を括ったキリも、白鷹からの不意の攻撃に動揺して隙だらけの兵士から武器を奪おうと彼らの懐へ突っ込んでいった。
宿屋の中だと言うのに家具が壊れるのもお構いなしに兵士たちは白鷹へ向かっていく。
周りにいた客たちは悲鳴をあげながら我先にと店から飛び出しては安全な場所まで走るが被害が及ばない場所まで行くと彼らは薄着のままだと言うのに、冷たい雪の降る中、事の成り行きを見守っている。

「ま、待ってください、隊長!」

「イオウ、」

「今回は、見逃してください!本当に白鷹はついてきただけで、誰かを傷つけたりしていないんです!」

「見ればわかる、だが盗賊を捕まえる絶好のチャンスを逃せば俺たちはいい笑いものだぞ!」

「でも!俺皇子と約束したんですよ!今回は…うっ!!」

イオウの首筋に鈍い痛みが走って自分の意思に反して視界が隊長の顔から腰、そして足元へ落ちていく。
やがて意識も落ちて地面に倒れこんだイオウを見下ろしていたキリは、隊長の男を真っ直ぐ見つめて言った。

「…これで俺たちが勝手に暴れたのでイオウさんはそれに巻き込まれただけってことになりますか?」

「それではあなたの立場がお悪くなりますよ?」

「俺の立場なんて、イオウが頑張っているのに比べたら可愛いもんです。白鷹はこのまま逃がします。邪魔をしないでもらえますか?」

「それは困りますね。邪魔が入らなければ我々はこのまま白鷹捕獲を続けなければならない」

隊長は、剣をキリへ構えたまま淡々と述べる。
タクトと白鷹の位置を視線だけで確認してキリは、右足を一歩下げると足元に魔法陣を起こした。
発動した魔方陣からの風圧でキリの周りは緩やかに風が渦を巻き始める。
いち早くキリが魔法を発動したのに気が付いたのはタクトですぐさま白鷹のそばまで
走って行き、なるべく距離があかないように立ち回った。
準備が整ったキリが右腕で薙ぎ払うしぐさをしただけで轟音が響いて建物が大きく揺れだした。
窓枠ががたがたと大きな音を立て、ガラスは振動でひびが入ったり割れたりする。
目もあけていられない勢いに兵士の誰もが腕で顔を覆い、目標を見失わないようにとなんとかその場で堪えたが風がやんだ頃には三人の姿は消えていた。

「…自分の面目よりも、イオウの名誉をとるか。不思議なお方だ」

キリたちが立っていた場所も、自分たちの周りも砂埃、家屋のがれきが散乱しているというのに、イオウが倒れている周りだけは塵一つ落ちていない。
能天気に気絶している部下を見下ろして隊長の男は、他の兵士たちにがれきの処理を始めるよう促した。






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