16

キリは、書き込まれた本のページを開いてにわかには信じられなかった。
何度も何度も読み返してどう読み返してもそうとしか読めない文字面から視線を離すと
西の魔術師は今までで一番神妙な声色で話し始める。

「お前の師はまがい物だ。あいつは魔力はそこそこに持っているが技術が無い。
力だけでなんとかしようとしているから中央の魔女に押し負けたんだ。
なにより魔法を覚えるには自分の属性と反対の魔法も使いこなせなきゃいけないのに東のやつは、闇の魔法しか覚えていない。お前は見たはずだぞ」

「闇の」

タクトとキリは、アガタが魔女へ放ったあの黒い影を思い出していた。
特にキリはアガタに拾ってもらってからこれまで一度も見たことのなかったあの黒い影がなにかいやな感じがした。
あれがどんな魔法なのか教えてもらったことはなくても普通ではないとはうすうす感じていたが西の魔術師がそれほどまでに不穏な雰囲気を纏って言うのだからとてつもない魔法なのだろう。


「その魔法にも反対の属性があるんですか?」

「光の魔法がある。お前の師匠の師匠…翁はどちらも完璧に使いこなしていた。だから中央の魔女を封印できた。…とはいえ、使いこなしていた翁でさえ本に封印するのが手一杯だったのだから、魔女は本当に強力だ」

魔女が強力なのはわかる。
あのアガタが怯えていたのだから。
城に何十人といる高名の魔術師達が足元にも及ばないアガタが歯も立たないのだから、魔女は本当に強いのだ。
四大魔術師の中でも魔力がトップクラスのアガタなのだから、ほかの魔術師が行動を起こそうとしないのもうなずける。
弟子の身分であるキリが彼らが臆するような魔女に勝てる勝機なんて1パーセントもないが父であり、師であるアガタを助けたいと思うのはごく自然なことだ。

「なんだ、アガタは捕まったのか?」

「中央の魔女が復活したんです」

「それでコーツァナの連中が最近でかい顔をしているのか。
コーツァナ兵なんて、鎧が銅から金ぴかになっていたしな…魔女の恩恵か…」

白鷹は、不可解なコーツァナ兵達の動向の意味がようやく理解できると大きく頷く。
元兵士だっただけあって、やはりよその国の軍の動きが気になるようだ。

「もともと、光も闇もどちらも誰でも扱えるものなんだ。ただバランスが難しくて誰も手を出したがらない。翁はたまたま素質があったからうまくいっていたがアガタのは付け焼刃ぐらいのものだ。独学だった所為もあるだろうがな」

「…俺も、覚えられますか?」

「俺の分身を本に宿した。知りたくなったら基本的なことは本の中の俺が教えてくれる」

「ありがとうございます」

「さて、用が済んだから俺は帰るぞ。大事なものも取り返したしな」

西の魔術師はそういうと振り返るでもなくさっさと部屋を出た。
ちゃんとお礼が言いたいと思ったキリが慌てて後を追ったがすでに彼の姿は消えていた。
痕跡も感じられなかったので魔法を使って移動したらしく、風の精霊の王に尋ねても
魔法を使ったようだとしか答えは返ってこなかった。
部屋へ戻ろうとすると今度は白鷹が帰るところであったのでキリは今度こそお礼を述べて頭を丁寧に下げた。
白鷹は罪人に頭を下げて礼を言う人間などそうそういない、と驚いて初めて会った時のように豪快に笑い声をあげる。
それでも彼がいなければ魔女を封印する方法もわからなかったのだから白鷹には感謝してもしきれないくらいだった。
途中まで見送るとキリが言い出すとタクトもイオウもそれについてきた。
白鷹は断ったがキリはどうしても見送りたかったので無理やりついていくような形になった。
4人で歩くには少し狭い廊下をわたって、エントランスへ出て四人は驚くことになる。
大勢のメルンヴァ兵に囲まれたからだ。





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