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そこへ足を踏み入れるとピリリと空気が張りつめていた。
タバコや酒のにおいが充満していて時々むせ返るほどだった。
イオウは、キリよりもずっと緊張しながらあたりを警戒して隣を歩いていた。
メルンヴァ兵だけでなく、兵士たちはここへはあまり近づかない。
何故ならここでは兵士は恰好の餌食だったからだ。
まず武器、鎧の類は一つも残らず剥がされ、運が悪ければ暴行を受ける。
幸いにも死者は出ていないが兵士たちの間ではそこは立ち入り禁止区域になっていた。

「大丈夫ですよ。俺いるし」

「お、おれもだいじょうぶです!」

「すいません。俺なんかの見張り役になったばっかりに…」

「えっ」

「…イオウさんはもう少し誤魔化す事を覚えた方がいいと思います」

「すいません…て言うか、知ってたんですか…?」

「いや、まあ」

キリの護衛と見張り役を仰せつかったのは、キリからはずっと離れた場所で、
それも小さな声で耳打ちされたくらいだったので誰にも知られることはないと思っていた。
けれどもキリはすべて知っていてイオウがくっついて来る事を許していたのだった。
護衛ならばまだ煩わしいと思うだけで済むが見張られるとなると気分がいいわけがない。

「もしかして、全部知ってますか?」

「うん。俺がここにいるって王様に伝わってるのも知ってるし、さっき
宿屋を出る時に店主のおじさんに俺がここに来ることを城に伝えるように言付けてたのも」

「なんで…」

「俺、これでも魔術師なんで、白鷹の頭領の方からこっちにくることもわかるんです」

え?と聞き返した頃には、周りにいた男たちが近づいてきていて壁を作っていた。
話に夢中になっていたイオウは、自分の注意力のなさに歯噛みしてキリの前へ移動した。
身長が高いもの、恰幅がいいもの、筋肉が盛り上がってるもの、小柄なものさまざまだったがそれらの男たちをかき分けて40代後半頃の男が真っ直ぐキリの目の前まで歩いてきた。
男の目にはイオウが映っていないのか、見下ろす形でキリへ尋ねる。

「小僧。お前どこから来た?」

「ノグ国です」

「ノグだと?ノグには金髪は生まれねぇだろう」

「…正確に言えばわかりません。俺捨て子なので」

「なんでここに来た?」

男はやや考える風の素振りを見せて質問を続ける。

「あなたを捕まえてこいと言われました」

「俺たちが怖くねぇのか?そこの小僧は震えあがってるぞ?」

「彼が怖いのはあなたじゃなくて、集団です。別に、一対一なら怯えない」

「お、皇子!」

白鷹の言葉をきっぱりと否定したキリへの罵声が一気に上がった。
子供一人に侮辱されては元兵士、元傭兵と言えど彼らも黙ってはいられない。
内心、イオウは心臓が飛び跳ねるくらいうれしかったが、それよりも殺気立った盗賊たちの声の方に心臓が飛び跳ねてしまった。

「皇子?ノグ国のか?」

「違います。魔術師です。俺は、アガタ・ノグ・ホウヴィネンの弟子だ」

「アガタだと…?」








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