13
四大魔術師の一人がまさかメルンヴァにいるとは思っていなかったイオウは、
宿に戻って更に驚かされた。
その人物がマントを脱ぐと黒色だと思っていた髪の毛はまっすぐな赤髪に変色していき、キリかタクトが使用するであろうベッドへどかりと腰を下ろして魔術師は、そっぽを向いた。
「俺が知っている方法なんて北のじいさんなんかの足元にも及ばない」
「及ぶか及ばないかを判断するのは使ったその時だと思ってます。知っているのと知らないのとでは雲泥の差ですから」
「…そう言えばアガタの弟子を見るのは初めてだな」
「キリといいます」
「真の名は?」
にやり、と試すように魔術師が尋ねたがキリはだんまりを決め込んだ。
いくらか眉間に皺が寄ったのを見て、イオウもタクトも緊迫した空気に身を引き締めたが魔術師はすぐに息を吐いて首を横に振った。
「…ただ教えるのはなんか納得いかないから、一つ、テストをしてやる。それをクリアできたらその本に記録してやるよ」
「テスト?」
「簡単だ。白鷹を捕まえてくればいい」
「白鷹!?」
「白鷹ってなんですか?」
「情報もすべてテストだと思いなさい。俺はここで待っているから今から…そうだな3時間で捕まえて来なさい」
少なからずイオウが反応したので知っているらしいがそれでも材料は少なすぎるとキリは見て取った。
どこからともなく小さな砂時計をとりだした魔術師は、次に新鮮な果物、飲み物、それからピカピカに磨かれたグラスを取り出して最後に大きな大理石でできたテーブルへそれらを並べて優雅につまみ始めた。
先ほどまでキリたちから逃げまどい、怯えていた人物とは思えないほどの落ち着きようである。
呆れて溜息もでなかったが、キリがそんな事は意にも介さずイオウに縋り付くように白鷹について尋ねてきたのでイオウは自分がしる限りの白鷹の情報をキリに話した。
「白鷹って言うのは動物じゃなくて、人なんです。このあたりにいる盗賊団の頭領の名前で」
「なんだ、人なんですか、じゃあ簡単だ」
「で、でも我々メルンヴァ兵に手におえない程に凶悪で規模の大きな盗賊団なんですよ!」
「ふうん。それでそいつらのいる場所ってわかってるんですか?」
「街のはずれの長屋の付近です…って、だから!我々でも手におえないんですよ!?」
「大丈夫です。強いんで。タクトはどうする?」
「ウーン。テストの対象は俺じゃないみたいだから留守番してるわ。あの。俺魔法剣士になりたいんですけどいろいろ教えてくれませんか?」
「私は弟子はとらないが…できる範囲であれば協力しよう」
「じゃあ、行ってくる」
「キリ皇子いいい!!」
今にも泣きだしそうな声を出したイオウは結局、タクトの代わりにとキリに同行して城下町案内もかねて一緒について行くことにした。
西の魔術師が出したテストを恨めしく思いながら、それよりも更に白鷹を軽んじて考えているキリとタクトにすっかりあきれてものも言えなかった。
白鷹がこんなにも危険視されているのにはわけがあった。
彼らは他国、或いはメルンヴァ国自体からあぶれた「元兵士」、「元傭兵」などの集まりなのだ。
彼らは能力はあるものの人間関係や、上下関係に適用できずに国の兵士をやめてそこにたどり着いたのだった。
ぽっと現れた盗賊とは違い、基本的な戦法が身についているので始末に負えない。
メルンヴァ兵の行動を先読みされてしまい最終的には裏をかかれて取り逃がしてしまうのだ。
おかげでメルンヴァ兵の面目は総潰れしてしまい、市民たちは兵士を街中で見るたびにほくそ笑むのだった。
「白鷹の頭領はかなり頭がよくて、以前はどこかの国で将軍まで務めたそうなんです」
「詳しいんですね」
「…そう言う情報はあるのに、俺たちはやつらを捕まえられないままなんです…情けない」
「被害は?」
「特に国交の為に訪れた貴族たちが狙われます。街中ではあまり暴れないようですが…」
「面白いですね」
どこが面白いのだろうかとイオウは、キリの横顔を盗み見ると本当にキリがどこか楽しそうに見えた。
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