11

「なんだかすいません…」

「何がですか?」

「キリ皇子と喧嘩させてしまったようで…」

タクトは、ああ、と忘れていたように声を上げて首を横に振る。
心配そうに見つめてくるイオウは、城へだけは絶対に行きたくないと駄々をこねたキリの意見を尊重して兵士を代表して近くの宿屋への案内役を仰せつかった。
少し先を歩くキリの背中を眺めながらイオウとタクトがそれについていき、
どの道をどちらに曲がると言った指示を先ほどからタクトが短く伝えるだけの
簡素な会話しかない。
つまり、空気が重いのである。

「喧嘩ってほどじゃないですよ。どっちも悪いことしていないんだし。ただキリの方が気持ちの整理ついてないだけで。な?キリ」

「…うん」

金髪の少年は振り向かないまま頷いて答える。
騒がしい商業区の中を歩いていてもキリの声は通ってイオウの耳に届いた。
二人の仲に絶対的な信頼がなければこんな風にはできないだろう。
ただでさえ王族と兵士と言う厚い壁があるのにもかかわらずだ。
ほんの少しだけうらやましいと感じながら、イオウは二人が泊まる宿屋の玄関先で足を止める。
二人は一番安い宿を希望したがイオウの先輩兵士はまさかそんなところに一国の皇子を泊められるはずがないと待遇のいい店を見繕って教えてくれた。
そこは時々メルンヴァの城の要人たちが利用する場所でいくらか融通が利く。
事情を説明すると宿屋の店主は二つ返事でわがままを聞いてくれたようで
料金を最小限に抑えてくれるらしい。

「あの…ほんとにいいんですか」

「大丈夫ですよ!お二人には質素すぎるとは思いますが」

「「全然!豪華すぎます」」

「えーと、ご謙遜を」

普段使いなれない言葉を使って舌を噛みそうになったがイオウは堪えて言い切ったが
二人はそんなものはしていないと首を振る。

「ぜいたくしてるのは上流階級の貴族たちぐらいで俺たちは一般庶民ですし」

「え?でも皇子は…」

「母親はそういう生活してましたけど、俺はタクトと同じような生活が長いからあんまり……」

「なんか…あんまり皇子って感じしませんね」

「「よく言われます」」

部屋は、二人一部屋だったが、二人が言うように質素とは程遠い装飾が施されていた。
この宿一番の質素な部屋だとイオウも宿屋の店主も言ったがそれでも二人には豪華すぎると感じられるものだ。
荷物を置いたところで案内役だったイオウが自分たちの宿舎へ戻ろうと敬礼したあとだった。
キリとタクトがそれぞれの荷物を床に置いたままの体制でお互いの顔を見合わせるとにんまりと笑みを浮かべでイオウへドンドン近づいて行った。

「な、なな、なんですか!?」

「イオウさん酒場連れてってください」

「北国の酒はうまいって聞いたことあるんですよね」










[ 43/120 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -