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これでは埒があかないとキリはやや暫く頭を抱えた後、場所を移動したいと近くの酒場へ向かうことにした。
酒場などには行かせられないと反対されたがそれでもキリは酒場を貸し切ってくれればそれでいいと首を縦には降らなかった。
暫く問答を繰り返してようやく折れたイオウの先輩兵はため息交じりにわかりましたと呟く。
そうして近くとは言え、街で一番高級な酒場VIPルームへと通された。

「本当はこんなところに来てまで話すことではないんですけど」

「キリ皇子、こちらの方は?」

「あ、魔法剣士見習いのタクトと言います。キリとは…じゃなかった。皇子とは、
同じクラスで勉学に励まさせていただいております」

「何語だよタクト」

「社交辞令だ馬鹿。お前も覚えろ」

「えーと、ご友人…ですか」

はい、とにっこりと笑顔を向けたタクトとは違い、ムスリと顔をしかめたキリは、
ソファの背もたれに体を預けると大きくため息を吐いた。
イオウ達の隊長でもあるエリクでさえ、親友の王子にはそれ相応の態度で答えるのだが、彼らの間にはそれがまったく見られずにメルンヴァの兵士たちは、
もの珍しそうに二人を眺めた。
真っ赤な絨毯の上に置かれた革製のソファに並んで座る少年二人が大国ノグ国の要人であるなどと到底思えない。

「父が、中央の魔女に攫われました。俺たちは父を取り返す為に東西南北の魔術師達を訪ねて歩く旅の途中なんです。外交とかそんなものの為に動いているわけじゃないのでできればこのままそっとしておいてほしいんです」

「勿論通行許可証は持ってます」

用件だけを述べたキリに加えてタクトが許可証を見せたがそんなことよりも
ノグ国の王が攫われ、その攫った犯人が中央の魔女だと言う事実の方が聞き逃せなかった。
半ば信じられない事実だが、最近、国の外で魔物や野党が増えたと街の人達から苦情や報告が寄せられている原因が中央の魔女なのだとしたら納得できる。
何より、中央の魔女と言えば歴代の魔術師の中で最低最悪最強の言葉を持つ厄介な魔女だ。
その名はどの国にも知れ渡っていて伝説やおとぎ話の悪い魔女として子供から年寄までに語り継がれている。
兵士たちはゆゆしき事態と互いの顔を見合わせながらため息を漏らした。

「ほ、本当ですかそれは…!」

「本当です。だからいちいち城なんかに行ってへらへら笑ってる時間は無いんです」

「馬鹿、お前…!」

「皇子の話が本当だとすれば尚更王へ報告しなければなりません。中央の魔女の事はあなた方だけの問題ではありません。全世界の問題です」

恐らくは彼ら兵士の一番先輩にあたるであろう男が険しい表情で唸るがキリは引き下がらなかった。
確かに中央の魔女が復活したことは大問題だが、それよりもアガタの方が何倍も大切なことだったからだ。

「その魔女を刺激しないように隠密に事を進めたいんです…!仮にメルンヴァ国王に報告したとして国王陛下が魔女を倒せるんですか?」

「それは…ですが、それならば失礼だが、皇子がそれをなし得られると仰るのですか?」

「俺は、できないけど手助けはできる。できる人が魔女に捕まっているから、まずはその人を助け出さないと…」

「随分、自信がおありのようですね?いかに四大魔術師の弟子と言えど…」

「話にならない。タクト。やっぱり俺は先に進む」

キリがイライラしながらソファから離れた。

「冷静になれってば」

「キリ皇子、待ってください、これから吹雪になりますそれに日も暮れれば視界も悪くなる…!」

「離してください、俺は魔女を倒す気なんて更々無いんだ、アガタが助かれば…!」

「お前ひとりでなんでもかんでも出来ると思ったら大間違いだぞキルッシュトルテニオ」

「どう言う意味だよ」

普段名前を正確に言ったりしないタクトの声色が低かったのでキリも眉間にしわを寄せて聞き返した。
出ていくのを止めたタクトはソファの背もたれに背中を預け、体育座りをしながら
高い天井を見上げた。
そこには城や学校とは違う華やかなシャンデリアがぶら下がっていてちらちらと
ろうそくの明かりが揺らめいている。

「俺はお前の助けになる為だけに一緒にいるんじゃない。フォレガータ女王陛下からお前の護衛を頼まれた。アガタは自分で自分をセーブするけどお前は向こう見ずのところがあるからってな。俺もそう思ったから依頼を受けた。本当は俺なんかじゃなくて将軍クラスの人をつけたかったと思うけど、キリが嫌がるからって俺に頼んでくれたんだ。それで、向こう見ずのキリ皇子は、一人でどこまで何をできると思ってんだよ?地図の見方もわからないクセに?」

「タクト」

「睨みたければ睨めよ。俺はお前が無茶したり、死んだりするくらいならお前の意思なんて関係なしに気絶させてでもノグ国につれて帰るつもりだからな」





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