梅香がいた街を出ると道はどんどん山の方へ続いていて地面がうっすらと白んでいく。
草木には葉が殆どついておらずむき出しの枝は寂しそうに風に揺れていた。
やがて吐く息にも色がついてきた頃、キリ達が歩く足を止めるとそこからは乾いた街並みが見えた。
辺りは雪が積もっているのに街には一粒として白いものが降りておらず、自分たちが随分と標高が高い場所まで歩いてきたのが伺えた。

「たしっかに、さみぃな…!」

「暖かいスープが飲みたい」

「まあ、それが叶うのはまだまだ先だな。雪山で一晩なんて勘弁だから先進むぞ」

すっかり旅の指揮をとってしまっているタクトは地図を広げる回数が少なくなっていた。
この雪風の中で地図を広げたくないのか、それとも地図を暗記しはじめているのか、どちらにせよキリにとっては楽ができて好都合だった。
ちらちらと降りてくる小さな綿のような雪は地面や、キリたちの頭や肩に遠慮なしにどんどん落ちていく。
王都にいては絶対に体験できないこの寒さの中、二人は時々重くなる足をとめながらも道なりに山をどんどん登った。
すると道の端に木製の古ぼけた小さな看板のようなものが等間隔で建てられているのに気が付いた。
それぞれに目を通してみるとメルンヴァまでの道の長さを記してあって、それらは真っ白になった地面の中、やたらと目立って立っていた。
おそらく、雪が積もることによって道が消えてしまい、山の中で迷わないようにとこの道を通る人達の知恵で建てられたものなのだろう。
時々赤色の文字で雪イタチ注意と走り書きがある。

「なんか雪イタチの文字が目立ってきたな」

「このあたりに出るんだろうか?」

「だいたい、雪イタチなんて、小さな動物がそんなに凶暴なのか……?」

タクトが訝しげに呟くと不意にあたりが薄暗くなった。
もともと雪が降っているのだから雲がまた広がったとは考えにくい。
ふと後ろを振り向いた二人は、眼前に現れたものをややしばらく凝視することになった。
背丈が自分たちよりも数十センチ高く、横幅は二人が並んで丁度くらいの大きな真っ白い動物が仁王立ちしていたのだ。
初めは熊かとも思ったが熊ならば黒い体毛に覆われているはずだし、なにより顔つきがちがった。
まるでイタチなのだ。

「オイオイオイオイ!まさかこれが雪イタチだなんて言うんじゃねーだろうな…!」

「そう言えば大きさとか聞いてなかったな…」

白い大きな動物は太い真っ白な腕を二人めがけて振り下ろした。
二人は同時に反対方向へ飛びのけ、それをよけたが雪イタチは、どちらに先に襲い掛かるか品定めをした後、タクトへと突進していく。
とっさに武器を構えて衝撃に備えたが、もともと体格差が大きいのでタクトはあっさりとふっとばされてしまった。

「タクト!」

「雪がクッションになった!それより気をつけろ、早いぞ!」

「っ…!」

まだ体制を立て直せていないタクトが叫んでキリは臨戦態勢に入る。
先ほど、自分と体つきが同じタクトが真っ向から攻撃を受けて吹っ飛んだのだ。
同じやり方では雪イタチを倒すことはできない。
ならばとキリは、魔方陣を発動させてイタチを睨み付けるや否や、
風の壁を作ってイタチを退けさせた。
イタチは見えない壁に勢いよくぶつかり、その反動で地面に倒れこむと
警戒しながらもキリのあたりをうろうろしだした。
野生の獣は飼いならされた獣よりも警戒心が数段に上で危険を察知すると
中々間合いに入ってはこなかった。

(一番威嚇になるのは炎属性だけど…俺は炎属性まったくダメだし…)

「俺の方がいいか?」

「けがは?」

「してない。でもできる事なら気絶させられれば一番良いんだよな」

「うん」

「よし、じゃあ俺が足元すくう」

「15秒な」

「バカにすんなよ?」








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