「最近の若いもんはノックしてから入ると言う事をしらんのか、大体人様の家を訪ねる時は前もって連絡をしておくもんじゃ。まったく翁の弟子と言い、その弟子の弟子と言いなんと礼儀もしつけもなっとらん!」

「す、すいません…」

「山羊を置いてきたな」

「え?はい」

「ばか者。山の主をないがしろにしおって…人の娘なんぞにうつつを抜かすから中央のばばあなんぞに捕まるんじゃ」

「知ってるんですか?」

「詳しい話は後じゃ!さっさと茶を淹れんか!年寄りに仕事をさせる気か?!」

殆ど一気にまくし立ててきたと言ってもいい。
ドアに触れる前にドアが開き、そこにはキリ達の腰半分程度の身長しかない老人が立っていて木の杖を支えにひげを蓄えた顎を忙しなく動かしてそう言うと機敏な動きで踵を返し、戻っていく。
お茶を淹れろと言ったので家には入れてくれるようだが何よりキリ達がそこを訪れた理由を全て知っていたのには驚いた。
扉をくぐれば足下にびっしりと生えた芝が一面に敷き詰められ、ところどころに色とりどりの花や木が植えられている。
細い石畳がずっと続く先に北の魔術師の家があると思うと少し緊張してくる。
杖をついているのだからてっきり歩くのも遅いのかと思っていればさっさと進んでいってついていくのがやっとだし、辿りついた家はアガタが住んでいた小さな家とは違って造りも豪華な大きな一階建ての家だった。
溜息をついてそれを眺めていたが早く中に入れと催促されてろくに感動も出来ずに家の中に入ると内装もとても綺麗で少しノグ国の城を思い出した。

「そこに座れ。ええと、茶菓子はあったかな…」

「あ、あの、やりましょうか」

「客は座っとれ!」

「さっきと言ってる事違うじゃねえか」

「小僧、ここでは内緒話と言うものは無駄だと思え」

「ハイ…」

立ち上がったキリと、小声でぼそりと呟いたタクトが互いの顔を見合わせ、渋い顔をしたのはさすがにわからなかったようで、北の魔術師は小さなシワシワの手に
クッキーを乗せた皿を持つと二人並んで座る向い側の椅子に腰を下ろした。
皿をテーブルに置くとどこからともなくティーカップとポッドが飛んできて
カチャカチャと音を立てながらタクトとキリの前に並んでお茶が注がれていく。
案内された場所はテラスになっていて中庭の花畑がよく見渡せる場所だった。
ぼおっと眺めていると魔術師は、キリの意識を戻す為にテーブルを杖でコンコンと叩く。

「それで、魔女からアガタを取り戻す方法を聞きに来たのか」

「は、い…」

「おぬし、風の王がついてるな」

「はい」

「ならばそれを使えばいい。儂は、魔女と属性が同じだからな。助言にもならんかもしれんが丁度上手い具合にお前達師弟は水と風じゃ。魔法の属性にも相性と言うものがある」

北の魔術師の言っている事が理解できたので頷くと魔術師は今までの険しい顔が一変してにっこりと人のいい表情に変わる。
少年二人は驚いて目を丸くしたが魔術師は続けた。

「ああ、まあお前さんはぁ…儂寄りだな。暫くここで訓練していかんか?魔力が上がるぞ?ん?」

「今は…いいです。キリの手伝いしたいし。それが終わってからでもよかったらお願いします」

「そうか。アガタの弟子が来ると思って厳しくしてやろうと思ったがなんとも…腑抜けた顔が揃ったのぉ。あのはな垂れそっくりじゃ。そっくりすぎて…年老いた自分が恥ずかしくなる。あの魔女に刃向かおうなんて思うのはアガタとお前達ぐらいじゃろ」

深いシワを刻んだ顔にほんの少し影が差すのを感じてキリは、背筋を伸ばして耳を傾けた。
真本に閉じこめる事しか出来ない魔女にたてつこうなんて考えを持った人間はこの世界の何処を探してもいない。
ただの一人アガタだけは異様に魔女を毛嫌いしていて自分の力が遠く及ばずとも
あらがおうとしていたのだ。

「魔女が復活した原因は今だわからん。はっきり言おう。一緒について行って手助けする事はできん。だが助言はしよう。この本をおぬしに渡しておく。好きなように使うといい」

そう言うと先ほどのポッドやカップのように一冊の古びた本が飛んできてキリの膝にすとんと落ちた。
本は一度表紙をパタリと羽ばたかせたかと思うとその後は独りでに動くようなことはなかった。



[ 37/120 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -