ノグ国首都から離れ、国境付近に入ると人の往来が増えてくる。
隣接する国の人種だけでなく、その他の国からも訪れている旅行客や
旅商人も含まれているらしく着ている服装も顔立ちも肌の色も様々だった。
なんとなく浮き足だってすれ違う人たちを目で追っているとタクトが小突く。
田舎者だと思われたくなかったら真っ直ぐ前を向いて歩けと言うのだ。

「まあお前が外交してきたとか言う話聞かないもんな」

「同行しろとは言われた事あるけど断ったんだよ…俺そう言うの苦手だし」

「外見だけ見れば得意そうだけどな」

「俺はチャラくない」

むすりと顔を顰めるキリを見てタクトはこれでは外交など到底無理だなと感じた。
妹のカントがいるのでキリがノグ国の王になる可能性は極めて低いが、
やがて皇子としての仕事をしなければならない日が来る。
風の精霊の王が言った未来の王とは、いつの、どの場所でまでとは教えてくれない。
いつか本当にそんな日が来たとしたら果たして自分は彼の隣に立っていられるのだろうかと時々思う事がある。

「喧嘩だ」

「え?あー、派手だなあ」

タクトが視線を移した時には恐らくやり返した後だったのだろう。
恰幅の良い男二人がお互いの襟元を掴んでは殴り、近づいては蹴りつけ、
それを周りで見ている仲間達は喧嘩している男二人をはやし立てている。
殴られて吹き飛ばされれば仲間達が男を受け止めてまた相手の方へ押しやってと
しているうちに仲間以外にも通行人達が野次馬をはじめてやがては大きな騒ぎになっていった。

「ところでさ。俺たちあの向こうに行きたいんだよな」

「まあ…」

「早く終わらないかな…」

「ありゃあ暫くかかるかな…」

「日が暮れる」

「じゃあお前止めてこいよ」

「勘弁…」

そんな風に話していたら恐らく地元の住人であろう初老の老人がまた始まったのかと
二人の横で静かに呟く。
これが日常的な光景らしくぼうっと騒ぎを見ていたキリとタクトに今日はこの町に泊まっていった方が無難だと親切に教えてくれた。
と、言う事は騒ぎが収まるのはまだまだ先になりそうだ。
仕方なしに二人は騒動現場よりもノグ国側にある宿屋を探して宿を取る事にした。
宿屋に入ると元気な女将さんが二人を出迎えてくれてすぐに夕食の準備を始めてくれた。
食事まではまだ時間があると部屋へ案内されると二人は必要最低限の荷物を床に放り投げてベッドに倒れ込むようにして身を預ける。
真っ白のふかふかとは言えないが一般庶民には十分すぎるベッドはここ2,3日ぶりである。

「他の魔術師に会いに行くんだろ?連絡とかしておかなくていいのか?」

「さあ」

「さあ、ってお前なあ…」

「いいんだ。飛び込みで押しかけた方が上手く行く事の方が多いってアガタ言ってたし」

王城に入る前はアガタも他の国に出掛けたりする事が多く、その度にキリは家で一人留守番をしていた。
アガタも一緒に行くかとも尋ねないし、キリも不思議な事についていきたいと思った事が無い所為で今現在地図をまともに見る能力が低下しているわけだが、
よその国の話は沢山話して貰った。
湖に住む蛇や山のてっぺんまでよくわからない花を西の魔術師に取りに行かされて酷い目にあった話など、聞いている時はとてもわくわくしてその情景も目の前に広がって行くと言うのに、どうしてもあの家から出る気になれなかった。

「ここから近いのは北と南だよな…」

「どっちから行くんだ?」

「北から西に行って、最後に南を通ってコーツァナ国に行く」

「コーツァナ国?」

「そこに、いるんだ」




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