世の中にはおかしな事もあるものだ。
何も話していないはずなのに親友が城の門の前で
完全フル装備、旅の支度をして仁王立ちしながら腕を組み、自分を睨みつけている。
キリは、あまりにも自分との支度の重度が違う為ほんの少し呆気にとられてしまった。

「タクト…なにしてんの」

「何って、行くんだろ。アガタ助けに」

「行くけど」

「俺も行く」

「なんで」

「なんでって、アガタが連れて行かれて、お前がそれを助けに行くって言うのに
俺だけここで脳天気に授業なんて受けてられるか馬鹿」

「…脳天気に授業受けてても良いと思うんだけど」

「親友が困ってるのに、見過ごせないって言ってんだよ!鈍いな本当に!」

そこでようやくキリは、耐えていたものを吹き出す。
危険だから連れてなんて行けないともう少しで言葉に出そうだったが
この様子では恐らく彼の両親を説得…というか半ば強引に家から飛び出して来たに違いない。
その時の様子が手に取るようにわかってしまったので断る事なんてできなかった。
本音を言えば一人で旅をするなんて初めてだったし、心細いと思っていた時キリの心情をまるで読み取ったかのようにタクトは現れたのだ。
嬉しくないはずがなかった。

「…ノグ国第一皇子、キルッシュトルテニオ・ノグ・ホウヴィネンとして、同行してくれる事に…感謝する……あと、ありがとう」

「前のよくわかんねぇのはシカトする。後ろの方だけ聞いとく。どういたしまして」

くすぐったそうに顔を顰めて仁王立ちをやめたタクトは、踵を返して歩き出した。
その後を追うようにキリもついて行き、横に並ぶと照れ隠しなのか肩にパンチを一つ食らってしまった。

「で?どこにアガタがいるのかわかんの?」

「うん。でもそう簡単に入れる所じゃあないし、力が足りないからちょっと遠回りして行かないと」

「遠回り?」

「残りの南の魔女と北と西の魔術師に会って、方法を聞く」

キリがあまりにもサラリと言うものだからタクトは一瞬聞き流すところだった。
とんでもない名前が耳に入って来て、その言葉が脳に伝達され理解できるまでに時間がかかってしまったのだ。
は!?と大声で聞き返したがキリは、表情一つ変えないのでやはり聞き間違いだったのだろうかとタクトは、思った。

「方法って、教えてくれんの?って言うかその人たちもどこにいんの…?」

「それは風の王に聞く。その為に勉強してんだから」

「まあ、それは…なあ…」

「ただ、さあ…その…俺」

「?」

さっきまでハキハキと喋っていたキリが急にしどろもどろに話すものだから、
タクトはまた首を傾げてキリの言葉を待つ。
やや暫くあのう、そのう、と言っていたがやがて思い切りがついたのか
真っ直ぐにタクトを見つめて言った。

「俺、地図の見方がわからないんだ」

「……お前さあ、授業も成績いいし、魔術もすげーけど。なんで大事なとこ勉強してねぇの?」

「だって、まさか国から出るなんて思ってもいなかったから…」

「それにしてもちょっとくらいは…まあいいや。行きながら教えてやるから、覚えろよ」























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