13

「結局自分で張ったのか」

「…うん」

「しかし見たかったものだな、あのクソジジイ共が目を丸くしている顔」

「クソジジイって…」

「お前も思っていたんだろ」

「…うっ……」

てっきり叱られると思っていたらフォレガータはカントがこれわたしが焼いたのと差し出してくるスコーンを頬張って嬉しそうに言った。
キリは拍子抜けしながらも湯気の立つ紅茶を一口飲んで図星を指されると言葉を詰まらせる。
まさか彼女まで同じ言葉を使うとは思いも寄らなかった。
城に集められた魔術師達は結局大した出番もなくまた自分たちの家へ戻っていく事になってしまったが、そのうちの何人かがキリの魔力に感動したらしく挨拶に来た。
さすがアガタの弟子だとかなんだとか言った後、そろいも揃ってそれは貴方自身の力ですと言ってくれたのはちょっぴり嬉しかった。

「それにしてもお前一人で張ってしまうとは思わなかった。アガタはお役ご免だな」

「よくわからないけど、気がついたら出来上がってたから…」

あまりにも頭に血が上って自分でもどうやったのか覚えていないくらいだったが、
魔法陣が消える間際に精霊の王の声を聞いた気がした。
なんと言ったかまでは聞き取れなかったがなんとなく彼が嬉しそうだったのはわかった。
恐らく結界を張る時も力を貸してくれたのだろう、その証拠にキリの体力は殆ど減っていなかった。

「ひとまず、他国からの攻撃は抑えられるとして…問題は魔女だな」

「真封の書は、図書館にちゃんと保管されていたんですよね?」

キリが尋ねるとフォレガータは口まで運びかけていたスコーンをまた皿に置いた。
そして眉間に皺を寄せながら手を小さな細い顎に添える。

「ああ、ただし、持ち出された形跡はあるそうだ」

「誰が…」

「精霊に探させているそうだが、あまり良い返事は期待できないようだ。
持ち出した人物が巧妙に足跡を隠しているらしい」

(そんなの、魔力がかなり高い人じゃないと)

キリが生きてきた中で会った魔術師ではアガタが一番魔力が高いと思っている。
もし、アガタが同じ事をして、果たして同じように痕跡も残さずに真封の書を持ち出したりすることが出来ただろうか?
それとも世界には、ただ知られていないだけでアガタよりもすごい魔術師がいるのだろうか?

「さあな。何にせよ、これはノグ国の責任にもなる。早急に魔女を封印しなければ」

「…うん」

「……それで、いつ発つんだ」

「明日にでも」

「…そうか」

急にフォレガータの声のトーンが落ちていくのを感じてキリは
少し申し訳ない気持ちになった。
寂しく思ってくれるのが嬉しい反面、側にいてやれないもどかしさぐらいは持ち合わせている。
こうして見返りもなく他人である自分の事を思ってくれるのは、フォレガータや、
エムシやカント、それに親友のタクトくらいしかいないだろう。
そんな彼らを出来るなら自分の手で守りたいと思い始めたキリだった。










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