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結局、カントとの約束をすっぽかしてようやく集まった魔術師達の前にいるが、
彼らがすんなりキリに協力してくれるわけがなかった。
特に王城付きの魔術師達は高齢で、頭が固く、なにより彼らに追放された闇の魔術師である翁の弟子のアガタを毛嫌いしていたのだ。
現在は女王の夫でこの国の王とは言え、そんなアガタの弟子であるキリの言葉などに耳を貸す者はほとんどいなかった。

「東の魔術師の弟子とは言え、こんなひよっこに何が出来ると言うのか」

「中央の魔女と言えば最強最悪の魔女…やつの魔術の前では何者も無に等しい」

「大体にして、どうして魔女の封印が解かれたのか……」

「真本はこの国にあるのだぞ?誰かが持ち出したのか…?」

(…こんのクソジジイ共…)

どれだけ心の中で悪態ついてもいいが表情には出すな。
母親であるフォレガータから教わった『王族での作法』を今まさにキリは実行している。
まさかこんなところで使う羽目になるとは思わなかったが今は冷静にならなければとキリは何度も自分に落ち着け、と言い聞かせる。
時間が無い上に彼らのミジンコ程度の魔力でも無いよりはマシだったからだ。
力も技術も時間もあればこんな阿呆共になんて頼らずに一人でさっさとこなしてしまっていたが、それが出来ないのが一番悔しい。

「とにかく、力を貸してください。これは女王陛下の命令でもあるんです!」

「皇子は…そのお…なにか勘違いしておいででは?」

「勘違い?」

「確かに我々は女王陛下に仕える魔術師ですが、貴方が思っているほど我々の力は…そう簡単に使用して良いものでは無いのですよ」

「それに結界ならば我々がすでに張り巡らせている」

「…ですから、もしもの時の為に…」

「もしもの時!?我々の力が、あの忌まわしき闇の魔術師の弟子に劣ると仰るのか!!」

白く鎖骨の辺りまで伸びたひげを顎に蓄えた魔術師がヒステリックに叫んだ。
それを合図にするかのように周りを囲む王城付きの魔術師達は一斉に不満の声を上げる。
彼らを少し離れたところから見ている城下町や地方から呼び出された魔術師や魔女が少し気の毒そうにキリを眺めていたが誰一人として助け船をだそうとすることはない。
王城の魔術師達は、舞い込む仕事全てを自分たちでこなすわけではなかった。
例えば地方に赴かなければならない時はその近辺にいる魔術師や魔女へ使いを送り、
彼らを雇う形で仕事を請け負うからだ。
つまり王城の魔術師達はそれ以外の魔術師、魔女達にとって雇い主にあたる。
雇い主を差し置いてキリを庇えば自分たちの仕事がなくなってしまい、生活できなくなるのを恐れて、ただこの騒動を見ている事しかできなかった。

「…忌まわしき闇の魔術師の弟子なんて、あんた達が勝手にそう呼んでるだけだろ…」

「言わせて頂くが皇子、あなたとて、どこの国の人間かもわからないようなお方の『分際』でこの国でこの城でよくも大きな顔が出来ると言うものですな?」

「俺は別に良いけど、アガタも、翁じいちゃんもあんたらにどうこうと言われるような人じゃない。頭の固い頑固ジジイ共が体よく城から追い出す為にある事無い事でっち上げた癖に…!」

「口が過ぎますぞ、皇子」

「俺の事皇子だなんて思って無い癖に、皇子なんて都合の良い名前で呼ぶな!!」

キリは、あまり感情にまかせて声を荒げたり腹を立てて暴れたりするタイプではない。
けど、今は腹の底がとても熱くて体の体温がドンドンあがって行くのを感じながら、
怒りで震える体を宥めるのが精一杯だった。
こんなにも誰かに怒りの感情をぶつけた事など生まれてこの方、一度もない経験だったので自分でも何をしているのかよくわからなかった。
気がついたら足下に思い描いた魔法陣が現れていてそこから光が溢れると、
一気に風が吹き出して城の隅々、あらゆる場所まで突風が流れ込んでいった。
あまりに強い風だったのでテーブルに乱雑に置いてあった魔術師達の研究資料が
部屋の中をばさばさと音を立てて舞い上がった。
風は城のみならず、城下町までをも包み込むと薄く透明なドームで辺りを覆った。
魔女の一人が窓から空を見上げると、空を飛んでいた魔物がそのドームに運悪く当たり、一瞬で消し飛んでしまっていた。

「これは……」

「あんたらに手を貸して貰おうと思った俺がばかだった。折角陛下に頼んで来て貰ったけど…」


そう言って魔術師と魔女であふれかえる部屋を出ていったキリが張り巡らせた結界は、
アガタが張っていた結界よりも強度が増していた。





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