城に魔術師が集められるまでには時間がある。
その間に結界を張る準備を済ませ、魔術師達は力を蓄える。
ただ、キリは、フォレガータの部屋へ呼ばれ、豪華な装飾を施された椅子に
座らせられ、テーブルには落ち着けるようにと暖かいお茶とクッキーが添えられていた。

「母さん、俺結界を張り終わったらアガタを助けに行く」

「…危険すぎる」

「大丈夫だって。なんとかする」

「ダメだ。お前までなくしてしまったら私は」

「母さん」

先ほどの王の顔が嘘のように彼女は項垂れて気を落とす。
背もたれに体を預け、頭を抱えていて表情が伺えないが声に覇気がなくなってしまっている。
気を張っていたなんてそんな風には思えずに強い人だと勝手に思いこんでいたキリは、
自分の脳天気さが恥ずかしくなってきた。

「確かに俺はアガタよりも弱い。でも他の魔術師が助けにいくよりも、
母さんが兵を率いて取り戻そうとするよりも俺が行くべきなんだと思う。
だからアガタは俺に逃げろって言ったんだ。
ただ逃がしてくれただけじゃない。それに俺…こんな事言うと怒られるかもしれないけど恩返ししたいんだ」

「……そうだな、その言い方は気に入らん。私も怒るぞ」

「ですよね…はは…。でも、それでも俺は感謝してるから、俺が犠牲になってでも」

「その言い方は気に入らんと言っている!」

「…でも今この国に必要なのは俺じゃなくてアガタだよ」

紅茶を口に含んで喉の渇きを潤し、キリは、テーブルを勢いよく叩いたフォレガータを見つめて続けた。

「今のは最悪の場合の話だけど。俺はアガタを助けに行く。誰がなんと言おうと。
別に魔女を倒そうとかそんな事まで考えていないし、本当に助けにいくだけだから。無理は…なるべくしない」

「私が許可すると思うのか」

「それは…王としての命令ですか。それとも母親としてですか」

伺うように尋ねるとフォレガータは両方だと答えた。
キリが、この国では珍しい金の髪を揺らして俯き気味に小さく息を吐くので
女王は眉間に皺を寄せた。


「俺の意志を縛るのが家族とか、地位とかだと言うのならそんなものはいらない。
父親一人も助けられないようなものなんて」

「本気で言っているのか…」

キリは、アガタによく似ていた。
特に考え方は幼い頃から育てられて来たからか生き写しのように思える事が多々ある。
現に今こうして対峙しているとアガタと話しているような気分になってフォレガータは複雑だった。
親として接していいのか王として接して良いのかそれともどちらも不正解なのかわからなくなる。
その上頑固なところは余計なところまで似てくれたものだと呆れてしまう程だ。

「…皇子の地位は捨てられても、家族を捨てられては困るな」

「…言いすぎました」

「カントとエムシが泣く。それからウォンネーゼ」

「シャンニード様じゃなくてですか」

「シャニよりもウォントの方がお前をお気に入りだ。アガタは相変わらず好かんようだがな」







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