「…話はわかった。それで私はどうすれば良い」

「はい、あの、王城の魔術師全部を集めて……王城だけじゃなくて、
できれば城下町の魔術師も。城に集めてください。結界を、張ります」

一字一句違う事無く報告したつもりであったがフォレガータは、
動揺する気配もなく淡々とキリを王座から見下ろしていた。
恥ずかしい話、彼女が女王として仕事をしているところをあまり見た事がない
キリは、こうして王の前に跪いて話をすると言うのがはじめての経験だった。
そもそも跪いていいものかもわからない。

「それで、誰が結界を張る」

「お…私が」

「お前のような一学生の見習い魔術師が、城の守護を司る結界を張れると?」

ようやくそこで自分の力量を計られている事を悟ったキリは、
ほこり一つ見あたらない床をじっと見つめる。
アガタでさえ数時間かけて作り上げる結界をいくら他の魔術師が助けてくれるとはいえ、ただの弟子に張れるのか。
更に言えば、そんな弟子に王城のトップクラスの魔術師達が力を貸してくれるのか。
言うのは簡単が事はそれほどに単純ではなかった。
自分が女王の息子とは言え血は繋がっていない、その上あの闇の魔術師の弟子であるアガタの弟子だ。
王城の魔術師達はアガタを毛嫌いしている。
勿論自分のこともだ。

「…恐れながら陛下。私は、風の精霊の王を従えております。
私の師であるアガタは、東の魔術師と呼ばれ最高権威の魔術師ではありますが
風の精霊の王は呼び出す事はできませんでした。結界の張り方は、
師に伝授されており、方法はわかります。あとは私の足りない部分を国中の魔術師達に補って欲しいのです」

「何が足りないと言う」

「経験を」

言葉の使い方が間違っていないだろうか、
言い終えた後、フォレガータは暫く沈黙を守った。
誰も喋らない王間の中には、警備兵と、王の横に並ぶ大臣達の呼吸の音しか響かない。

「面白い事を言うな。キルッシュトルテニオ・ノグ・ホウヴィネン。
成し遂げられなかった時はどうする?」

「どうもしません。また結界を張るだけです。はっきり言って、俺も含めてですけど、ここの魔術師達にアガタと同じ結界を張る事はできない。でも力を合わせればそれに近いものは出来ない事はないんです。それすらもしようともしないで国を潰すならあなたは歴代で最低最悪の王だ」

「陛下になんと言う言い方を…!」

キリは、立ち上がって真っ直ぐにフォレガータを見つめ、すっぱり言い切ると、
周りの大臣達がその暴言にざわめきはじめる。
血縁のものでさえ、最低最悪などと言う口をきいて機嫌を損ねでもすれば処罰される。
それが王族というものだった。
けれどキリは王族であって王族でない、ただキリと言う人間である。
国民の一人として王を諫められないのならどこにいたって同じなのだ。

「…そんな事、言われたら末代までの恥だな。すぐに城、及び町中の魔術師をかき集めろ!今度は緊急事態だと告げてな!」



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