「エムシ大丈夫?」

「……」

「だめだこりゃ、つかこの距離は普通に疲れるだろ」

「俺たちよく行き来してたよなぁ…」

「イイネーっ若いって!」

「じじくさいアガタ」

すっかり歩き疲れてしまったエムシを背負いながら、アガタは前を歩く二人の若者に
嫉妬の眼差しを向ければ息子のキリが溜息混じりに視線だけを寄越して呟いた。
数歩先にある木造の小さな小屋のような家を背に、
丘から眺める町は小さくてミニチュアのようだ。
数年前はここで暮らしていたのが懐かしくて吹き付ける風をしみじみと身に感じてしまう。
家のすぐ後ろには生い茂る緑の森があり、更に家の小ささを引き立たせる。

「外…は荒らされてる感じないけど?」

「中?の方が考えにくいんだけど…」

「はー気味悪い気味悪い…なんだろ…」

「エムシ、俺がおぶろうか?」

「うん、ちょっと替わって」

少しアガタが警戒しているのでキリは、少しぐずるエムシを宥めながら背負った。
背負うとはいえもうエムシの体も大きく、ほんのちょっとだけ重みに顔を歪める。
あやすようにエムシの背中を撫でるタクトがキリの隣に並んでアガタの行動をじっと見つめている。

「疲れたら交代する」

「うん、ありがとう」

この家はアガタとキリが出る時にアガタが誰も侵入しないようにとまじないをかけて来たので、そもそも侵入者がいるかもしれない事自体がおかしい。
ただの盗賊やら空き巣ならばこの家さえ認識する事ができないようにしてあるからだ。
魔術師と呼ばれる職種の人間には、家自体は見えてしまうが、それでも
まじないのかかっている家にわざわざ入ろうとする者は早々いない。
大概が、誰かの研究室かなにかだと、通り過ぎるのが暗黙の了解であった。

「ちょっと…結構がっちりかけてったんですけど…なにこれ…ズタズタとか…」

「おいい…怖い事言うなよアガタ〜…!」

家の周りの地面をさすりながら、驚きを隠せないアガタは行ったり来たりを繰り返し、
時々またしゃがみ込んで地面をさする。
足下からひんやりとした何かを感じてタクトが思わず両腕をさする。
タクトの剣士として情けなさ過ぎる態度に思わず吹き出しそうになるが、
アガタはおどろおどろしくゆっくり振り向く。

「どうしよう、なんかすごいのがバーッと出てきたら…」



「凄いのって、私とか?」


木造のドアが音を立てて開き、女の子が一人出てきた。
すらりと伸びた足を動かして肩にかかるくらいの長さの栗色の髪をふわりと揺らし、
数歩家から離れたところで立ち止まりアガタをじっと見つめる。
アガタははじかれたようにまた家の方を向き直すと今度は固まったように動かなくなってしまった。


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