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声こそ荒げていないものの互いの感情はしっかりと入り込んでいる。
やや暫く睨み合ったと思うとどちらともなく溜息をつき、
アガタは広げていた紙を丁寧に丸めていく。
「とにかく、封印することになったらキリに手伝ってもらう。大丈夫。
風の精霊の王がキリは未来の王だって言ってたし」
「未来の王?」
「この国なのか、他の国なのかはわからないけど」
ノグ国は女王制の国なのでここと言うのは考えにくい。
ならば自然に他の国のと言う事になる。
他国の女王と結婚するのか、はたまた別な状況になるのかは風の精霊にしかわからないが。
「それに……」
「どうした?」
「ポチが鳴いてる」
「…?あの山羊か?」
「うん。滅多に鳴かな………あーあ……」
「説明しろさっぱりわからん!」
腕組みをして憤慨するフォレガータに苦笑いを浮かべてアガタは、溜息を吐く。
先ほどから溜息ばかりだと今更ながらに思った。
「俺ん家になんか入った」
「空き巣か」
「賊か、それ以外のなんかか…見てみないとわかんないけど」
「エムシも連れて行け」
「そっちのが危なくない…?」
「アレもそろそろ外の世界を見なくては」
自分よりも何倍もあるクローゼットを開いて薄い水色のローブを羽織って
アガタは、肩を竦める。
自分の小さな息子の姿を思い浮かべてこっそり同情してしまった。
フォレガータ自身が幼い頃から武術やら学問やらをたたき込まれている所為か、
それが王家の人間として当たり前の事と捉えている。
間違ってはいないのだろうが、王族と言うものを知らない・毛嫌いしているアガタにとっては、自分の子供がその対象になるとなると不憫でならない。
「まー…優しくしてあげればいいじゃん…」
「私は甘やかすのが嫌いだ。それに私が厳しい分お前が甘いだろう」
やや非難めいた視線にいたたまれない気持ちになったアガタは、ドアへ向かって歩きだす。
王城からアガタの家まではかなりの距離があるが彼が馬を使わない事は、
もう随分前からの習慣になりつつあった。
乗馬技術はある癖に歩いていくの一点張りで以前、せめて息子のキリだけにでもと
勧めたがまた彼も首を横に振った。
これだから闇の魔術師の弟子と言うものは変わっているのだと
城の人間は密やかに陰口を叩いていたが、陰口が陰に留まった試しなど一度たりとてない。
特に王城の魔術師達はいまだにアガタを疎ましく思っている。
(こればかりは、どうしようもない事なのかもしれない)
それじゃあ、と部屋を出たアガタの背中を見送りながらフォレガータは窓の外へ視線を移した。
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