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中央の魔女に比べたらこんな薄っぺらい壁など、造作もなく破壊されてしまうのが容易に想像できる。
どれだけ厳重に警戒しても、どれだけの魔術師を集めても恐らく敵わない事はわかっていた。
彼女の属性は炎で自分は水。
今現存する魔術師で唯一対抗と言う言葉を使う事ができるのはアガタ一人であった。
(あーチョー憂鬱っ大体、北のじーさんがもう少し頑張ってくれるか、若かったらなあ……)
テーブルいっぱいに広げられた王城の見取り図をうんうん唸りながら睨みつけては溜息の繰り返し。
今のところは特に問題はないがこれから魔女がどう行動するかによっては、
対策を練らなければならないだろう。
とは言え、他の魔術師達が果たして協力してくれるかどうかは定かではなかった。
「なぁにが四大魔術師……」
翁の弟子と言うだけで祭り上げられた形になっているのが気にくわないが、
事実今まで自分以上の魔力を持った人間を中央の魔女と、翁以外に見た事は無い。
他の魔術師達はその肩書きにおぼれてしまって今ではすっかりなまくら魔術師と化している。
普通の人間にはわからないが、よくよく見ていればほころびだらけの魔術に
いつも溜息しか出なかった。
部屋のドアをノックする音に顔を上げるとアガタの返事も待たずに
ドアノブが下へ傾く。
その後は勢いよく扉が開いてノグ国の主は肩肘を張り、見取り図を広げて
ぽかんとした表情のアガタの隣へ並んだ。
「首尾はどうだ」
「んー、いいのかー悪いのかー」
「はっきりしろ」
「怖い」
フォレガータは、どこがどう言う状況なのか、と言う意味合いで尋ねたが
アガタは感情の名前を述べた。
明らかな動揺が見え、彼もどうしていいのかわからないのだろう、
そっと腕に手を伸ばすとアガタは一つ深呼吸をした。
「私の所為だ」
「そうだね」
「どうにかならないのか?」
「翁がどうやって閉じこめたかわかればいくらか…」
慰めも遠慮もなくきっぱりと言ったアガタに助けを求めるようにフォレガータが尋ねると、アガタは唸るように呟く。
所有者から真本をとりあげ、封印を解こうとした女王の行動の結果がこれだ。
同時に、優秀であった魔術師を人間の嫉妬と欲だけで奈落の底へ追いやった愚かな王室の魔術師の。
「鍵も盗まれたしなあ…」
「管理責任の問題だな」
「俺だってなんの鍵かまでは知らされてなかったんだって」
「私だってまさか魔女が封印されているなど知らなかった」
「……」
「……とにかく、なんとかしろ。バックアップはする」
「バックアップったって、たかがしれてるじーさんばっかり…キリのが何倍も使える」
「キリには手だしさせんぞ」
「お母さん。息子が大事だからってねぇ」
「キリはまだ学生だ」
「でも皇子だ」
「お前はキリを殺したいのか?」
「そうじゃないって。キリは十分能力だってあるし、それに今は皇子なんだし
特別扱いってわけには行かないんじゃないの?」
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