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魔術師と言うものは元来…と言うか誰もが根暗で、頭が固く、
体力のない人物を想像するものであった。
その為、魔術師の他に魔法騎士や騎士たちが戦の際、
彼ら魔術師の身の安全を物理的な攻撃から守ったりするのが通例である。
剣や槍を使いこなし、あまつさえ国に仕える剣術の達人である騎士に勝つ事など
誰が想像できるだろう。
「これでグダグダ因縁つけて来ないんだよね?」
「失礼を致しました。申し訳ございませんでした」
「だから王国の人間て嫌いなんだよね」
心の底からの軽蔑の眼差しをぶつけて持っていた槍をキリに押しつけると
アガタは脇目もふらずに練習場をつっきる。
「アガタ!どこへ行く!」
「疲れたから戻る」
「お前は、娘の晴れ舞台にグースカと寝ているつもりかっ!」
通る女の声で怒鳴りつけられたアガタが大きく目を見開いてようやく振り向いた。
その先には自分の小さな娘と息子がお互いに手を繋いで父親である自分を
見つめている。
そこでようやく思い直したアガタはまたすごすごと戻るハメになった。
疲れたとは言っているものの先ほどの動きなど彼にとっては、準備運動くらいにしかならないものなので息も切らしていない。
近づいてくる父親に真っ先に駆け寄ったのは次男のエムシだった。
いつもならカントの方がすぐに抱きついてくるのだがこれは意外、とアガタは
自分の両足に腕を回した息子を抱き上げる。
「おっどしたーっ??」
「やっぱりとうさまはすごかったんですね!」
「やっぱりてどゆこと」
頬を紅潮させる子供は、自分の事のように嬉しそうでそれを
言葉では上手く表現できずにただひたすら父親に寄り添って抱きついた。
「とうさまーカントもー!」
「とうさまの腕もげちゃうわ。キリに抱っこしてもらいな」
「とうさまがイイーッ」
「とうさま大人気」
「とうさまどうでもいいけど早く着てくんない?結構重いんですけど」
娘の為に戻ってきた優しい父親へローブを手渡そうと持っていたのだが
キリも予想していた以上に重く、さっさとこんなものは手放してしまいたかった。
人ごとながら、よくこんなものを黙って着ていたものだと父親を感心の眼差しで見つめると同時にやはり中身はただのアガタなのだと実感する。
「どうでもいいとか言わないでよキリ君。あんた着れば?練習に」
「なんのだよ」
溜息混じりに返した時、首筋にふわりと風が吹いて撫でる感触を感じて
とっさに後ろを振り向いたキリはぎょっとした。
学院の庭でみたあの精霊がにかにかと嬉しそうな顔をして宙に浮いているのだから。
その姿が見えているのはどうやらアガタ一人らしく思わず吹き出して笑ったアガタに
怪訝な表情を浮かべるフォレガータが首を傾げる。
『未来の王、きっと似合うぞ』
(お前まで何言ってんの…!大体、みんないる前で話しかけてくんなよ…)
『未来の王は冷たいな、北風のようだ。ああ、いい事を教えてやろう』
風の精霊の王は頭を軸にして宙返りしキリの前に移動したと思ったら
不意に神妙な表情で低く唸るように呟いた。
『中央の魔女が目を覚ました』
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