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「お前、剣は使えるのか?」

「使えないから他の使わせて欲しいんだけど」

「魔術は使わないんですか?」

「剣しか使えない人に魔術使って勝っても嬉しくないし」

言葉の端々に棘があるのを背中で感じて、キリは壁に立てかけてあった短槍に手を伸ばした。
他にも短剣や弓矢もあったがキリは真っ先に槍を選んでアガタに手渡した。

「ああ、ありがとう」

「…大丈夫なの」

「一応リングはつけるから」

「そっちじゃなくて」

「……あっちがそこそこにやる人なら」

ちらりと視線を向ければエリクはすでに準備を終わらせていて剣を引き抜いている。
キリはアガタが負けてしまうのではなく、彼がうまく力加減をコントロール出来るのかどうかが不安だった。
周りはと言えばそんなキリの心配も余所に二人のどちらが勝つか、などと賭けを始めている人もいる。
殆どの人たちが他国の兵士だが、隊長でもあるエリクの方がどうみても物理的な決闘では軍配があるだろうと予想を立てている。
勿論、それだけが理由で無く、元々アガタの存在を楽観視しているのが大半だったからだ。

(陛下も知らないんだっけ…)

ただ、知っているのは自分と、妹と弟の、3人だけだった。


「それでは、勝敗の指揮は私が執る。両者位置につけ」

鎧を身に纏ったエリクと、さっきまでの重そうなローブを脱いで、軽装になったアガタが互いに向かい合う。
始め!と高らかに声が響いたのと同時にエリクがピカピカに磨き上げられた剣を振りかざした。
間一髪のところでアガタは後ろへ下がってそれを避けたが、エリクは攻撃をやめる事はせずそのまま第二、第三と剣を振り上げ、振り下ろしてアガタを追いつめる。

「おっ、ととっ??」

「逃げるだけでは、私は倒せませんよ!」

「…ですよねえ?」

「えっ?」

右足を軸に左足で床を蹴って、アガタは高く飛び上がったかと思うと、エリクの肩を足場にくるんと一回転してエリクの背後へ着地した。
アガタの重みでバランスを崩し、前へ倒れそうになるのを剣を床に立ててなんとか支え、素早く後ろを振り返った時にはすでに短槍のその鋭い切っ先が眉間すれすれの位置にあった。

それらはものの数秒の出来事で誰も彼もが声を出す暇も無く、気が付いたらアガタがエリクを捉えていた。
呆気にとられるしかない観客達は誰かの溜息が漏れても誰一人として声を出そうとはしない。

「勝った?」

「えっ?ああ、アガタの…勝ちだ!」

女王もまた呆けているうちの一人で慌てたようにアガタのいる方の腕を上げて宣言した。
たたき起こされた鶏のようにようやく人々が歓声を上げたが兵士達はやはり複雑なようで不安そうに負けた隊長の周りに集まっていった。

「隊長」

「驚いた」

「俺たちもです。まさか隊長が負けるなんて…」

「…私は彼を見くびっていたようだな」

「それにしてもあれは反則でしょう!?」

「いいや、彼は始めから騎士としての戦い方は知らないと言っている」

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