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「王子はこの度来られなかったので、私にその旨を託したのです」
「ふーん。まあ俺には関係ないけど」
「アガタ!」
「別に俺フォレガータが女王だから結婚したわけじゃないもの。その王子はこの国との繋がりが欲しいんでしょう?」
「見くびらないでいただきたい。わが国の王子はそんな方ではありません」
「それは失礼しましたっ」
にこりと魔術師が笑ったがイオウの背筋がゆるむ事は無かった。
まだ空気が張りつめているのがひしひしと伝わってくる。
それはイオウだけが感じているものではないようでベルンハルトもまた緊張の面持ちで事態を見守っている。
「つまりは俺が気に入らないって事?」
「そうとも言うかもしれません…。陛下、申し訳ありませんが、場所を移させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「なんだっけ、騎士の訓練場みたいなとこあったよねキリ?」
「え?ああ、うん…」
「待てお前達、私は許可してなど…」
「女王陛下」
アガタが女王を呼ぶと女王は一層表情を険しくして夫である魔術師を睨んだ。
足下まで伸びた、きらびやかな装飾を施された重そうなローブが動くたびにシュルシュルと音を立てる。
「会食の方、丸投げしちゃうけど」
「……はあ、どうしてもやるのか」
「決闘好きでしょう?フォレガータ」
「好きと言うわけじゃない。決着がつかないのが嫌いなだけだ」
「あっそう」
キリがアガタに促されて王間をでるとそれに続いてアガタが、エリクへと目配せして、エリクもまたそのあとについて歩く。
一緒についてきた隊の兵士達は付いていくべきなのか狼狽えているとイオウが真っ先にエリクへと詰め寄った。
「隊長、俺もついていっても?」
「ああ、驚いただろう……自由にするといい。他の者も、ここでこのまま会食を楽しませて頂け」
「とうさま!わたしも行くう」
「カントとエムシはかあさまとここにいなさい」
「私も行くぞ」
「ええっ」
もはや会食どころの騒ぎではない。
主役の不在な会食などなんの意味があるだろうか。
他にも招待された貴族や他国の客人も時期女王はもうすでに披露された事だし、と何人かは王と他国の隊長の決闘の方が気になるようだった。
結局、その場の全員が場所を移し、騎士訓練場に向かった。
いつもとは違う活気が訓練場に充ち満ちる。
その中心には魔術師と、騎士が二人向かい合わせで並んでいた。
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