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「やばい…遅れた…ッ!!」

息を切らし、男は歯を食いしばって呟いて長い廊下を走り続ける。
進めば進むほどに人の行き来が増えていくが自分が目的としている人たちは一向に見えてこない。
置いて行かれたのは自分の責任ではあるが、声くらいはかけていって欲しかった。
そんな風に考えながらも隊長からの雷に備えて、どう言い訳するべきかなんて考える余裕もあった。
あったのだが、会場である開かれた王間へ飛び込んだ瞬間のその映像にイオウは固まった。

「隊長?!」

「イオウ、お前どこに行って…!」

ベルンハルトが駆け寄ってきたがイオウはそれでも自分の隊長が剣を抜いている状況が理解できない。

「何、どうした?!」

「隊長が、国王陛下に決闘を申し込んだ」

「は?!」

険しい顔つきの隊長。
その目の前には怯えるでも挑むようでもない国王であろう男。
そしてその隣には小柄な女性、彼女こそがこの国の王なのだろう。

「なんでそんな事に…?!」

「よくわからない。でも…なんて言うかその…」

ちらりとベルンハルトが視線を泳がせた。
何かを言い出しにくそうに口の中でもごもごと喋るのでまわりの人たちの話声に紛れて良く聞き取れない。
分かった事と言えば結局、誰もこの状況を飲み込めていない事くらいだった。


「俺は、騎士の剣の勝負の仕方とか分からないんだけど」

「魔術師の貴方に騎士のソレをして頂こうとは思っておりません」

「待たれよ、そなた、どう言う理由で…!!」

「フォレガータ女王陛下。私はメルンヴァ国王子とは無二の親友なのです。王子からの婚約の申し出を蹴った陛下のお相手がふさわしい方か、見極めてくるようにと仰せつかっております」

「王子が決闘申し込んで来いって言ったの?自分でやらないで?」

アガタが失笑する。
イオウは少なからず、そんな魔術師を見て背筋が伸びた。

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