15
兵隊達から半ば逃げるようにして部屋へ戻ったキリは時間までを弟と二人で過ごした。
学校の宿題を済ませつつ、弟の勉強もみてやるのが日課で、弟は遠慮がちにキリに話しかける。
兄の邪魔はしたくないと考えているのだろうが、キリにとっては面倒な宿題をダラダラやるより、そうして合間、合間に弟が頼りにしてくれる方が気も紛れて宿題もはかどったのだが。
「はー緊張してきた」
「にいさまでも緊張するんですか?」
「エムシ、俺はとうさまみたいに肝は座ってないからな」
「肝って座るんですか?」
「………」
これはどう説明するべきなんだろうか。
言葉の意味を理解できないでいるエムシが首を傾げて聞き返して来たのでキリが無言のままでいるとエムシは急に話題を変えた。
恐らく困っている兄の様子を見て聞いてはいけないことだったのだと子供ながらに悟ったのだろう。
こういう所は全然両親に似ていなく、むしろキリに似ていると思われ、両親はまさしくお前の弟だなと笑い飛ばしていた。
宿題もそこそこに終えて、二人は薄暗くなった窓の外を眺めてから、王間へと向かった。
向かう途中の廊下にはメイドや執事、それから大臣やら兵士達が沢山行き来して賑やかだった。
二人がすれ違うたびに彼らは二人に頭を下げて挨拶を交わす。
エムシへはすんなりと頭を下げるのだがキリへはやはりどこかぎこちなく、時々無視したままの大臣もいた。
それをエムシがいつも叱責して結局キリへ頭を下げるのだがそちらの方がキリはいい気持ちはしなかった。
「エムシ、いいよ」
「いいえいけません。にいさまだって王族の一人なんですから」
ここはアガタもそうだが、血縁関係の無いキリには特に肩の狭い場所でしかない。
そう感じさせて「くれる」のは先ほどのような大臣達のその態度でエムシが生まれる前は特に、それは酷かった。
(でもその度にへい…かあさんが怒るんだよな。エムシみたいに)
『丁度いいじゃない。急にこんなところに来ても傲らなくて済むよ』
そしてアガタは笑って自分たちが傲慢にならないのなら良いと言ったのを思い出してキリは小さく深呼吸をする。
「あのさ、エムシ」
「なんですか」
「俺はたしかに陛下とアガタの息子になったけど、王族になったとは思ってないよ」
「??」
「難しいかも知れないけど」
「難しいです…」
「うん。今はそれでいい」
さあ、と弟の小さな背中を押して大きな扉の前に立つと扉の両側に立っていた兵士が静かに王間へ招き入れてくれた。
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