「ねえ、キリはその、…身分の高い人なの?貴族とか…。
それにあの人…お父さん?とても若く見えたんだけれど…
ここがどこかも教えてくれなくって、なんだかお城みたいに豪華なところね?」

「ああ…あの人はああ言う人だから…ごめん。あの。ここはノグの城で俺はノグ国女王フォレガータ・ノグ・ホゥヴィネンの息子…まあつまり皇子なんだけど…」

キリは腰までかかっているシーツをぎゅっと握った。
キリはあまり身分の話をするのは好きではなく、できることならそういうものは
ずっとどこかへしまっておきたいとさえ思っている。
特に皇子と言う地位は相手の態度を一気に豹変させる力を持っているからだ。
変わらなかったのはただ一人、タクトだけだったが。

「皇子?様?」

「うん。血は繋がっていないんだけど」

「フォレガータ女王陛下ってあの、ノグ国の女王様の」

「う、ん」

「お、おう、皇子様って…皇子様って…!!?ええええ!?うそ!私そんな方にとても失礼な事ばかり…!すみませんでした!知らない事だったとは言え…!」

「あの、ウルズラ」

大騒ぎするのもムリはないが、こんなに取り乱すとは思いも寄らなかった。
ウルズラは自分の頬に両手を当てて立ち上がると辺りを行ったり来たりを繰り返す。

「あああ、それから父もとても失礼な事言ってましたよね!?どうしよう…って言う事はさっきの人は王様!?私、怪しい人だなんて思っちゃった…!」

「ウルズラってば!」

「はいっすみませんっ!」

「そう言うのやめてよ。その皇子だからとかそう言うの」

「でも…あの…」

「俺はただの旅人だった俺達を助けてくれたウルズラが好きなんだよだから…あっ、違、好きってそう言うんじゃ無くていや、あ、違わないんだけど、えーと…だからその、」

「ごめんなさい、ふふ」

皇子と名乗ったにも関わらず少しもその傲慢さが感じられないし、
初めて会った時と全然変わらないキリにウルズラは少しだけ安堵していた。
今でも自分よりも身分の低いウルズラとちゃんと目線を合わせようとしてくれている。

「…終わったら、ちゃんと説明しにいくつもりだったのに、アガタが先に連れてきちゃうから…」

「戦争だったんでしょう?噂に聞いたわ。
他の国に行くって言っていたから貴方は大丈夫だと思っていたんだけど…」

「あ〜、うん大丈夫。終わったから。それでさ、あの」

「キリ!目が覚めたのか!」

言葉で表すまでもないくらいにバーンと勢いよく開けられたドアから現れたフォレガータは開口一番にそう言った。
その登場にびっくりしたウルズラは固まってしまっているし、
キリとしてはまさに本題に入ろうとしていたときだったと言うのにこのタイミングの悪さは
なんなのだろうか?
頭を抱えてぎりぎりと歯を食いしばりキリは唸るように呟く。

「…母さん…アガタ早いよ…」

「結構時間潰したんだけどね?まだ決着ついてないの?」

妻の後ろからひょっこり顔を出したアガタの手にはトレーがあって
その上には消化に良さそうな薬膳スープが湯気を立てている。
アガタはキリのベッドの傍にあるテーブルへトレーを置いて小鉢にスープを取り分ける。
キリはふるふると頭を横に振って意思表示するとアガタは苦笑いを浮かべた。
とにかく慌てているのはウルズラである。
先ほど皇子だと名乗ったばかりのキリが母さんと言ったその人物こそが
ノグ国の女王、フォレガータその人だと言う事なのだ。
これ以上ない驚きにもはや何を言って良いのか分からないと言った様子で呆然と
女王を見つめている。
フォレガータはアガタとウルズラがいる右側ではなく、キリのベッドを挟んで左側に
周り、ベッドへ腰を下ろした。
そしてウルズラを上から下まで観察するとふむ、と自分の顎に武人とは
思えない白く細い指を滑らせる。

「お前がキリの想い人か?」

「ちょっと!」

いや、待て。
待ってくれ。
こんな風になるような予感はしていたが本当にしてくれるとは思わなかった。
女王はどうにも空気が読めない節がところどころにある。
鈍いと言ってもいい。
もともとキリもそれほど鋭い方ではなくてもここまで酷くはないと自負している。
だからイヤだったのだとアガタに助け船を求めて視線を送ったが
父親は熱そうなスープを冷ますのに必死で少しも気がついてはくれなかった。


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