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「カント、すっげえ泣き顔じゃん」
「にいさまがわたしを仲間はずれにしたんだもん!」
「あっははははっ!あー面白いっ」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしている小さな小さな次期女王は父親の膝に乗るとその大きな胸に顔を埋めて不平不満を漏らした。
それを笑い飛ばす父親は娘の背中をあやすようにぽんぽんと優しく叩く。
今日の会食の主役がこれでは先が思いやられる。
「おれはにいさまと男の約束してたんだよ、
仲間はずれになんかしてないっ」
「男の約束したっけ?」
「何約束したの?」
「にいさまに魔術と槍を教えてもらうんです!」
「へー。頑張れ!キリ!」
「アガタが教えればいいのに…」
ものすごく他人事のような態度の父親兼師匠にキリは溜息をついたがこれが彼なのだ。
そもそも魔術学院の教師と言うものも彼が望んでその職についたわけではない。
フォレガータがアガタを無理矢理その職務に就かせたのだった。
ただでさえ『王』と言う肩書きはあったがノグ国ではそれはあまり重要視されない。
女王制の国であればこそのものだがその上アガタの経歴が周りの目を厳しくさせる。
「教えるのも勉強のうち〜」
「自分がやりたくないだけだろ」
「あっカント鳥さん来たよほら」
「とりさん!」
「誤魔化した……」
最愛の娘を抱きしめて空を指さすアガタを背中越しに睨み付けたが視線が合わない為にそれも無駄に終わる。
小さく溜息を吐くと服の裾をくい、と引っ張られる感触に気が付いて
みてみるとそこには弟が小さな手で自分の服の裾を握りしめて少し不安げに見上げていた。
「どうした?」
「にいさま、ほんとうに僕に槍を教えてくれる?」
「え?ああ、うん。教える。俺教えるの下手くそだけど」
「そんな事ないです。にいさまはかっこいいから」
「あらまー盲目ね」
冷やかす父親をキッと睨みつけるとアガタは少しも怖くない癖にこわーいとわざわざ声をあげて怯えてみせる。
昔っから少しも変わらないいい加減な性格が早く女王の手によって修正されてくれればいいのにと何度願った事だろう。
「さ。そろそろ行こうか。フォレガータに怒られちゃう」
「おこられちゃうーっ」
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