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ヘラルドは女王の命令通り『ぬかり』なく部隊兵の配置を完了させる。
あとは敵を迎え撃つのみとなった頃、フォレガータが姿を現したので
兵士達は皆ぎょっとした。

「確かに、ここは大切な場所ですがね、なんだって貴女がここにいらっしゃるんです」

「囮くらいには使えるだろう?それに相手も本命がのこのこ現れてくれれば叩きやすいだろうしな」

げっそりたヘラルドにフォレガータは城の壁に体を預けてもたれかかる。
勿論、女王へ非難の声を上げたのはヘラルドだけではなかった。

「大将がいきなり『前線』に出るだなんて聞いた事ありませんよ!」

「お願いですから城にお戻り下さい、ここは我々が死守いたします!」

「陛下に何かあったら我々は皆に会わせる顔がありません!」

「当たり前だ。私を死守するのがお前達の役目だ。私はふんぞり返りに来ただけだ」

「もうやだ…」

「ヘラルド隊長なんとかしてくださいよ…」

「あ〜俺終わったな…」

(士気が下がっている…)

矢継ぎ早に女王へ詰め寄ったヘラルドに選び抜かれた兵士達は言葉通り
ふんぞり返っているフォレガータを見て一気に肩を落とす。
女王であると同時に彼らの大将でもあるフォレガータへの言葉と態度が
ヘラルドとさして変わらないのは、普段から一緒に訓練を行って培われた絆からである。
女王も貴族や文官達の恭しい態度よりは兵士達の気さくな態度の方が
性に合っているらしく地位や身分を気にしたりはしなかった。
勿論、そのように気軽な態度が許されるはずもなく、上位武官が何度かたしなめる場面も
ちらほらと見受けられる。
ただそれも最初は気をつけていてもだんだんと元の状態に戻っていき、
まさにいたちごっこになっていた。

「お前ら、気を引き締めろよ。陛下の御前で、無様な姿を見せるな」

森と城の境目で兵士達はヘラルドに喝を入れられると、先ほどとはうって変わって
兵士らしい表情になった。
まだ山に人影は見えない。
城下の方の戦闘が激化していく音が辺り一面に響いているが
ここだけはまだ静寂を保ったままである。
それが兵士達の緊張感を増長させていて次第に空気もぴりぴりしていく。
人の背丈まで伸びた草がさわさわと揺れる。
こちらからは伺い知れないが恐らく生い茂る植物の間からはこちらの様子が
手に取るように分かるだろう。
だがいくら注意しているとは言え、ろくに伐採されていない山道を歩けば草木が揺れる。
アーネスト、ヘラルド両隊はお互いに自分の弱点を念頭に置きつつ
引き連れている兵に命令を下していた。
先に仕掛けたのはアーネスト隊の弓手。
目視で確認できるフォレガータ目がけて数本の矢が放たれた。
だが瞬時に殺気を感じた兵士がそれを防ぐ。
フォレガータは身じろぎもせずに弓矢が飛んできた方向をまっすぐ見据える。

「女王はお前達の威嚇に怯えもしないようだな…こちらの動きを読んでいたのといい、
憎たらしい女だ」

「舐められるなんて心外ですね」

アーネストは部下に皮肉を言うと弓手は舌打ちをしながらこちらを睨み付けてくる
女王をにらみ返す。
兵士達は内心、上司であるアーネストの作戦が相手側に読まれていてかなり焦っていた。
だがアーネストはただ平然とそれも当たり前のようだと言う構えで自分の剣をすらりとぬいた。
それを火ぶたにアーネスト隊は一斉に草陰から姿を現してヘラルド隊へ勇猛に向かっていく。
対してヘラルド隊は向かってくるコーツァナ兵へ意識を集中させて力みすぎず、
かと言って力も抜きすぎない丁度良い緊張感で体に力を込めた、

その時だった。

お互い目の前の敵兵に集中していた為にそれが近づいてくるのに誰も気がつかなかった。
フォレガータだけはすぐにその動きを察知して視線を移していた。
何か大きなものが草の根を分けながら両隊へ向かってくる。
すっかり大柄なコーツァナ兵だと思い込んでいたフォレガータは表れたそれには
流石に目を白黒させてしまった。

草で覆われた急な岩場の斜面を悠々と飛び跳ねる白いもの。
二、三度高く飛び跳ねてヘラルド隊とアーネスト隊の間へ割り込んできたのは
真っ白い体に大きな角を持った立派なヤギであった。





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