矢継ぎ早に入ってくる情報では城下への侵入をフレデリック部隊が許した事により
被害が一気にふくれあがったらしい。
それから前方を硬く守っているドゥシャン隊の裏に回り込まれれば一気に
コーツァナがなだれ込むといった算段だろう。
しかしソレに及ぶにはコーツァナは屈強なノグ国兵士を一掃していかなければならない。
城下の壁を越えるよりも困難なノグの壁である。

(フレデリック側は囮、どれだけ数で圧倒しようとも、鼠が人間を囲んだのだ)

鼠と称されたコーツァナ。
幸い、コーツァナはまっすぐにノグの中心地であるここに向かってくれたので
他の地域への被害は確認されていない。
被害を小さくして城を落としたあとにコーツァナのものとして扱う為、
火の粉をバラ撒かなかったとも考えられたのだが
恐らくただ単純に頭であるフォレガータを叩けばいいと思っているのだろうと
フォレガータは読んでいた。
逆に言えばフォレガータとしてはそちらの方が好都合である。
最小限の被害でコーツァナを叩き返せるのだから。

それからもう一つ。
コーツァナ王よりも厄介なのは幾分頭の回る敵側の総司令のアーネストである。
諸国を転々として経験を詰んできた名将とも名高い男がよりにもよって
コーツァナに落ち着くなんて思ってもみなかった。
追々、ノグへ勧誘しようと思っていた矢先の知らせではさすがのフォレガータも
ほんの少しだけ肩を落としてしまった。
すでに敵対してしまったのだから仕方ない。
真っ向から向かってくるならば真っ向から迎え撃つだけだ。
だが話によればコーツァナ王が率いる前方部隊にアーネストが無いらしい。
やはり、と睨んでいたフォレガータは含みのある笑みを浮かべた。

「私ならば、山肌からも囲むな」

「確かに、後方からも囲んでしまえば逃げ場はなくなりますが…
城後方の山は自然の擁壁です。それに道も整備されていない、獣道しかありませんよ?」

「だから、ですか?」

パメラの問いを更に自分の問いにしてしまったディオンにフォレガータが頷いて見せる。

「そうだ、ありえない、から、ありえる、にしてしまえば相手の意表を突ける。
混乱させればいいだけだからな。あとは他の部隊がとどめをさして終わりだ」

「まぁ、俺なら他の部隊に手柄はやらずに確実に頭を仕留めますけどね」

「奇遇だな、私もだ。だから後方にお前を置いた、ヘラルド」

肩を竦めながら言ったヘラルドはドゥシャンが陣営で用いているものよりも
小さい地図の山岳部にチェスの駒を置いた女王に舌を巻いた。
女王は、国一番と言われるドゥシャン将軍よりもヘラルドを今回の作戦の要に置く。
それは「お前ならばやり遂げるだろう?」と言うプレッシャーと、
「なんでもかんでもドゥシャンに頼らなければ何も出来ないのか?」と言う
無言の挑発でもあった。
しかも絶対に失敗は許されない位置に配置され、ヘラルドの心痛は増すばかりである。
やる遂げる自信はあるがそれ以上のものを期待されている気がしてついつい表情が渋くなる。

「このヘラルド、陛下のご意向に添えるよう最善を尽くします」

「是非そうしてくれ」

フォレガータが満足そうにふんぞり返る。

「抜かるなよヘラルド」

さっときまじめな顔でディオンが言った。

「怠けないでくださいね、ヘラルド」

パメラが眼鏡をつり上げながら頷く。

「あーもう、プレッシャーかけんなお前ら!」

ヘラルドはドスドスと足音を立てながら女王の執務室を後にした。



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