18

「ほんとに魔女を待たせるヤツがあるか…」

「そんな事言ったって。でも待ってくれるならお言葉に甘えようぜ」

イクセルが頭を抱えてタクトに呆れて見せ、タクトはけろりとしながらも肩を竦める。
実際に魔女は大人しく少年少女達のやりとりを、まだ燃え尽きていない、街のあちこちに
自生している木にもたれながら眺めている。
そういえばこいつは変なところで度胸のある男だったのを思い出して
イクセルは溜息を吐きたくなった。

「いやいや甘えるとかおかしいでしょう?大体、あんた達の話、私たちには関係なくない?」

「そうだよ…!なんで私達なの?!魔女を相手にするくらいなら私フレデリック隊にいるままでよかったのに!」

「いや、まあ…フレデリック隊長があんたら寄越したからなんだけど…」

二人の少女がタクトに詰め寄る。
流石に女の子に言い寄られるのは気が引けるらしく少し逃げ腰だ。
ただ、タクトの腰が逃げた原因がただ女の子だけだとは断言できなかった。
二人の女子の迫力が凄まじかったせいもあるのだ。
タクトは彼女達5人とはクラスが隣だったり同じクラスだったりと多少なりとも面識がある。
フレデリック隊長は恐らく、その辺りも配慮して3人をタクトに預けてくれたのだろう。

「とにかく、ちょっと協力してよ。キリの為なんだって」

「俺の為って、俺は自分の事は自分で…!」

「出来てねーだろーが。実際」

眉間に皺を寄せたタクトがぴしゃりと言うとキリは体をちぢこませる。
そもそもアガタを助けに出ようとした時からキリは一人でやりきろうとしていた。
確かに、その能力、実力があるのは認めるが、それだけで成し遂げられる問題と
そうでないものが世の中にはある。
キリが地図を読めないこと然り、人見知りの気があるのも然り、
旅の途中、一緒に歩いてて自分の体調もろくに管理できずに突然ぶっ倒れたこともあった。
それらに手を貸したのはすべてタクトだ。
キリの言葉で言うならば『他人』なのだ。
今回の旅でそれを再確認してもらいたいというタクトや、母親であるフォレガータの気持ちをキリはようやく理解してくれたのだと思える場面もいくつかあったはずなのに、
こんな態度では振り出しに戻ってしまったではないか。

「お前の力だけを犠牲にしようとすんなよ。道連れにしようぐらい思えよ。それがイヤなら死にものぐるいでお前も生きて皆助けろ」

「…なんか言ってる事矛盾している…」

「こいつはこう言わなきゃわかんないの!」

カッ!とトマスのつぶやきにかみつきそうな勢いを見せたが確かに言っている事が
矛盾しているのもわかってる。
でもキリの場合はその矛盾の中にすら入れていなかった。
キリの中には自分を犠牲にするしか選択肢がないのだ。
あらゆる可能性を引き出す箱が皆無と言っても良い。
まるで自分の師匠であるアガタの後を追うように、キリは自分の
可能性の道を閉ざしている。

「…人の命まで預かれないだろ!」

「キリ皇子は、ただ漠然と皇子やってるんですか?ここ、フォレガータ女王陛下の国ですけど、貴方…言い方が悪くてごめんなさい。あとで罰を受けます。拾い子だからって、
国のこと、私達のこと何も考えてくれてないんですか?」

ヒイラギはいくらかムッとしながらキリの非難の声に反論する。
何も考えていないのかと問われたキリは、背中に冷や汗が流れるのを感じた。
血縁が無いとは言え、息子になったキリにフォレガータは、
従来正規の皇子が受ける教育をいくつもたたき込んだ。
元々平民よりも、更に引きこもった生活をしていたキリにとって
それはめまぐるしく窮屈で退屈なものばかりだった。
何事もそつなくこなす手際の良さなどが幸いして、恐らく他人以上には
要領よくできていたのかもしれないが、言葉通り、『こなしている』だけだったのだ。
王であるアガタが政治に関与しないからキリも何もしなくていいわけじゃない。

「確かに、皇子や陛下に頼りっぱなしって言うのはおかしいと思います。
でも、国を護ってくれるのは最後は…王様だと思うんです、その、家族だと思うんです」

「俺はお前が嫌いだ。何もしてないのに王座の周りをうろちょろして…でも、お前の
力がすごいのは…認めてる、努力もしてるって、本当はみんな知ってる。だけど、
今のお前はもっと嫌いになりそうだ」

「魔女が桁外れに強いから士気が落ちるのが仕方ないなんて、もう言いません。
キリ皇子、何か方法があるなら手伝います。腹括りました」

「私達の命、預けたらどうにかなるって事なんですよね?キリ皇子」

ヒイラギ、マロシュ、イクセル、トマス、ラリサがそれぞれに違う瞳で見つめてくる。
そこには不安や恐れ、期待、絶望、決意が満ちあふれているようだった。
そして唯一無二の親友の眼差しは確信の色しか読めなかった。
ここは小さな一つの国のようだ。
キリはその小さな国で自分ができうる限りのことをしなければならない。
だけどそれは一人で出来る事じゃなくて、ヒイラギが力を上げ、マロシュが微調整をし、
イクセルが士気を上げ、トマスは冷静さで、ラリサは全体の力を計ってくれる。
出来ない事じゃないそれらすべてを分担するだけでこんなにもキリには余裕が生まれる。
大丈夫だ。自信ならタクトがくれた。
タクトは全員顔見知りなのかもしれないが、キリにとっては5人のうち
イクセルくらいしか顔をよく知らない。
殆どハジメマシテ状態の子もいる。
けれど不思議とサミレフ達に会ったときのような暖かい気持ちになる。

「お友達ごっこはそろそろおしまいにしてくれないかしら。待つの飽きてきちゃった」


魔女の一言が第二戦の開戦の合図となった。







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