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「ブリュノさん!」

「おぁ!?タクトじゃねーか、戻ってきたのかお前!」

「あの、魔術師隊貸して下さい!」

「はぁ?!ふざけんなよ、帰ってきてそうそう言う事がそれか!」

ブリュノはタクト達新人の教育係兼、フレデリックの腹心の部下である。
青緑色の長い髪を首元でひとくくりにし、剣をふるう姿は女性にとても人気があった。
タクトはブリュノを尊敬しており、一通りの新人研修が終わったあと、
このブリュノの小隊へ配属を希望しようと思っているぐらいだ。
剣の腕もそうだが何より人柄が良く、部下への心配りを忘れない。
口は少し悪いがそれもどこか愛情の感じられるものであった。

「魔女が来てるんです、急いで下さい!」

「魔女が来てる事はもう周知済みだ!でもここはこれ以上コーツァナに侵入されるわけにもいかない、それにフレデリック隊長がお許しにならない」

「えーと、じゃあフレデリック隊長はどこに!」

「お前なあ、何しようとしてるんだ、順を追って話せ!」

戦にひょっこり飛び込んできたタクトは器用にブリュノにくっつきつつも
コーツァナ兵への攻撃を疎かにしない。
一言喋るごとに、コーツァナの剣をなぎ払い、戦闘不能にさせては、時々
ブリュノの死角から斬りかかってくる兵士を切り捨てる。
反応が抜群に良いタクトをブリュノはこっそりお気に入りにしている。
魔法剣術の方はからっきしのようだが、剣術そのものは悪くなく、スジも良い。
他にも郵趣なのは沢山いるがタクトはその未来性がぬきんでていた。
だが、フレデリック隊が担当しているエリアにこともあろうに魔女の僕であるケルベロスもいる。
どれだけタクトの腕を買っていても今魔術師をこのエリアから離すのは少々…どころか
かなりきつい。

「水属性の魔術師あつめて魔女へ一斉攻撃させます」

「おいおい、あいつはどうするんだよ!」

顎でしゃくった先にはフレデリックの後頭部であろう頭がせわしなく揺れている。
その向こうにケルベロスがいて、フレデリックの後方に魔術師達が疲れ果てた表情で
つぎつぎ魔術を繰り出していた。

「兵士の相手は兵士がすりゃあいいでしょう!勿論、ケルベロス対策に何人か残します、でもかき集められるだけかき集めて、広場へ連れて行きたいんです。そこにキリが…キリ皇子が向かってます!」

「皇子が!?」

タクトが戻ったと言う事は確かにキリも一緒でなくてはおかしいが、
親友であるタクトがキリと同行していないのもおかしかった。
ようやくしつこいコーツァナ兵を地面に叩き付けてブリュノは表情を硬くする。

「キリのメイン属性は風だから炎と対峙するのは難しいんです。だから水属性に強い
魔術師を何人か連れて行ってその人達に攻撃させて、キリを…キリ皇子にサポートサポートして貰います」

「サポートって…そんなのできるのか…」

「出来ます。キリなら」

タクトはきっぱりと言い切った。
魔術師の魔術は大抵のものは他者の影響を受けるものではない。
複数人の魔術を一つに『重ねて』放出することはできるが一つに『まとめる』のは
殆ど難しいとされている。
現に、ケルベロスと対峙している魔術師隊は大小ばらばらの水の柱をなんとか
すりあわせて一つ方向へ放っている。
魔術師の呼吸が一致しなければてんでばらばらになって威力も分散するのだ。
それをサポートするとなると精神も相当すり減るし魔力も膨大に使う。

「って言うか東の魔術師はどうした!」

「あ〜、今頃陛下のところに何かしら補給に行ってるんじゃないスか」

「…何かしらか」

「はあ、何かしら」

含みのある言い方を察知して少し呆れ気味の後輩を見つめる。
実力も経験もまだまだひよっこの癖にやたらと度胸だけはあるのだから始末におけない。
フレデリックの許可を貰おうと応戦している隊長の下へ近づいたブリュノとタクトは、
自軍の動揺とコーツァナ兵のどよめきを察知して急いで駆け寄る。
それと同時に背後に凄まじい勢いで火柱が上がる。
それは既に撤収したはずの医療部隊がいた場所だった。

「ケルベロスが…消えた!」

「ドルチェ様はどうなされたんだ…!」

元々戦闘に弱いコーツァナ兵はこのエリアの戦力の半分を占めていたケルベロスが突然
消えてしまい、動揺を隠せないでいる。
この好機を逃すまいとフレデリック隊は一気に攻めの姿勢を強くして
狼狽えるコーツァナ兵をたたみかける。



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