草木の生い茂る道のない森の中を兵士達はものものしい装いで駆けてゆく。
そこに住む動物たちは身の危険を感じているのかひっそりと息を潜めていた。
アーネストはコーツァナ本隊を離れ、精鋭のみの小隊を作って引き連れていた。
その山はノグの城下半分をぐるりと囲んだ険しい急斜面が特徴の自然の国壁となっている。
山奥からでも聞こえる戦場の雄叫びにはコーツァナともノグともつかない色がにじんでいた。

「もうすぐノグ城の裏につく。あとは打ち合わせ通り、フォレガータを探して捕らえよ」

アーネストが指示を出すと部下達は一様に返事をする。
アーネストの狙いはあくまで女王であるフォレガータ。
城の前方の攻撃はあくまで目くらましで本命はこの奇襲作戦にある。
戦争に不慣れなコーツァナには複雑な作戦を行うには訓練が足りないので
まず、部隊を5つに分けることにした。
一つは真正面からの攻撃、二つ目は右側から壁をよじ登っての侵入攻撃、
三つ目は左側から同じく侵入を試みる。
四つ目にはコーツァナ王を据え置き、最後のたたみかけと同時に相手の注意を逸らす為の
エサになってもらい(エサだとコーツァナ王には伏せてある)
そして最後の一つ、アーネストが率いる部隊が決定打を与えるというものである。
つまりは城下町全体をぐるりと包囲する形になる。

たしかにノグは力のある国だがたとえ戦力が強大だと言えども籠城してしまえば
手も足も出ない。
戦が長期戦になればなるほど閉じ込められた中の人間は心身共に疲弊し、
やがては兵糧も底をつく。
そこを一気にたたみかければあとはコーツァナの勝利と言うわけである。

「ふん、戦の女王もこの程度か。可愛いもんじゃないか」

「これはあっさり決着がつきそうですね」

アーネストがほくそ笑むとすぐ後ろをついてくる兵士が請け合った。
そばかすを頬に散らせている兵士はまだ若く20歳前後であったが
その剣の腕を見込まれてアーネストの部隊に配属された。
今回の要となる部隊に配属された兵士は彼以外であっても同じように
気迫と闘志に満ちあふれた表情で足を進めている。

「一応油断はするな」

「勿論です。アーネスト指令のお名前に傷は作りませんから」

やけに静かな森の中を部隊は突き進む。
アーネストは少し気味の悪さを覚えながらも頭を振って前をむき直した。
何を恐れているのだろう、なにが不安にさせるのだろう。
どこをどうみても勝利しか見えないのにアーネストは何かがひっかかる気がしていた。
当たり前の事を見落としているような感覚。
暫く経験していなかった大きな戦争への失敗できない任務を前に、尻込みしているのだろうか。
左右からたたみかけるようにコーツァナ国軍が城下へ侵入を開始したと思われる
轟音が空に響く。

森はいつまでも静寂を守っていた。





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